表題番号:2005A-856 日付:2006/03/25
研究課題会計上の変更及び誤謬の訂正の会計処理に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 助手 菅野 浩勢
研究成果概要
会計上の変更とは、会計方針の変更・会計上の見積りの変更・報告主体の変更の3つの総称である。本研究は、わが国における「会計上の変更及び誤謬の訂正の会計処理」が、以下の3つの意味で、わが国企業の会計情報の比較可能性を損なっていることを明らかにした。
 第一に、国際的な企業間比較可能性を損なっている。2002年10月のいわゆる「ノーウォーク合意」以来、国際会計基準審議会(IASB)と米国の財務会計基準審議会(FASB)は、両者の会計基準の間にある差異を除去するために努力している。その成果の一つとして、IASBは2003年12月にIAS8『会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬』を、FASBは2005年5月にSFAS154『会計上の変更及び誤謬の訂正』をそれぞれ公表し、この問題に関する両者の会計処理は実質的にコンバージェンスした。両者は、会計方針の変更について遡及適用を行い、誤謬の訂正について再表示することを要求しているが、確定決算主義に基づくわが国の会計制度は、過年度の財務諸表の修正が必要となるそうした会計処理を許容してこなかった。このことは、わが国と海外の企業の間での会計情報の比較可能性を損なっている。
 第二に、国内的な企業間比較可能性を損なっている。それは、わが国会計制度における会計上の変更等に関する会計基準の不備に起因する。そもそも、会計方針の変更・会計上の見積りの変更・誤謬の訂正の3つの区別には曖昧な部分もある。わが国では、それらは監査上の取扱いにおいて定義されているが、海外基準における定義とは微妙に異なっている。そのため、たとえば、減価償却方法の変更は、わが国では会計方針の変更とみなされるが、海外基準では会計上の見積りの変更とみなされる。また、わが国の『企業会計原則』において「前期損益修正」として例示列挙される事象は、海外基準では会計上の見積りの変更に該当するが、他方で、海外基準でいう「前期損益修正」は、遡及適用や再表示のような、過年度の財務諸表を修正する会計処理の総称である。このように、わが国では会計上の変更等の概念整理が十分になされておらず、そのため、それぞれの事象に適した会計処理を開発することは望むべくもない。こうした会計制度の不備は、実務の混乱をもたらし、わが国の企業間での会計情報の比較可能性を損なっている。
 第三に、同一企業における期間比較可能性を損なっている。それは、わが国の会計制度が、過年度の財務諸表の修正を認めないことに起因する。誤謬の訂正の再表示が望ましいのは言うまでもない。また、海外基準では、会計方針の変更も遡及適用によって過年度の財務諸表が修正されるが、それは、会計上の見積りの変更が当期中の会計事実の変化を反映するために行われるのに対して、会計方針の変更は同一の会計事実をより適切に反映するために行われるのであり、その影響額は会計事実自体の変化を反映しないため、当期の業績とはみなされないからである。いずれにしても、会計方針の変更と誤謬の訂正を適切に定義せず、過年度の財務諸表の修正を認めないわが国の会計制度では、会計情報の期間比較可能性が損なわれる。
 今後は、これら3つの意味での比較可能性を確保するに、わが国の会計基準設定主体はどのような方策を採るべきかを検討していき、その研究成果を論文にまとめる作業を行う予定である。