表題番号:2005A-835 日付:2006/03/21
研究課題歌舞劇研究―音楽劇から歌舞劇へ―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 渡辺 芳敬
研究成果概要
フランス発ミュージカル「レ・ミゼラブル」(1980)が英語圏ミュージカルへと拡大・発展していったことはすでに周知の事実だが、ここ数年フランスミュージカルの動きは目覚しく、昨年春ついに日本上陸をはたした(「十戒」(2000))。人気ミュージカル「ノートル=ダム・ド・パリ」(1998)もすでに中国・韓国・台湾を席巻し、好評を博している。
フランスオペラの伝統であるグランドオペラを思わせるスペクタクル性豊かなミュージカルの数々ーー「スターマニア」(1979)から「太陽王」(2005)までーーは、重厚な物語に加え、ロックからラップにいたる多岐にわたる音楽とこれまたバレーからストリートダンスにまで及ぶダイナミックな舞踏からなる、文字通りのカ・ブ・キ(歌・舞・伎)の復活ということができる。それは現代日本の歌舞伎の隆盛ーー市川猿之助のスーパー歌舞伎をはじめ、宝塚の植田歌舞伎、野田(秀樹)歌舞伎、いのうえ(かずき)歌舞伎、三谷(幸喜)歌舞伎、コク-ン歌舞伎etc.ーーとも確実に連動しよう。
英米圏のミュージカルと違い、全編ほぼ歌で構成されているフランスミュージカルの多くはいわば現代のオペラといっていいがーージャック・ドゥミの映画「シェルブールの雨傘」(1963)にその源泉を見出すことができるかもしれないーー、オペラ=音楽劇から、オペレッタ、レビューを経て、歌舞劇としてのミュージカルへといたるその流れは、ワーグナー的総合芸術論の20世紀的展開、一種の大衆芸術論の可能性とみなすこともできよう。物語はもちろんのこと、演技・演出、さらには音楽・音響・ダンス・照明・装置等等のさらなるレヴェルアップを通して、子供向けのエンターティメントではない、大人のためのエンターティメントを創造すること。反ファンタジー・反メロドラマがフランス的(ひいてはヨーロッパ的)ミュージカルの特徴だ。いうならば、現実逃避のミュージカルではなく、現実発見のミュージカル。音楽劇から歌舞劇への変遷は、そのまま音楽・舞踏に共鳴・振動する身体の発見であり、大いなる現実の発見にほかならない。