表題番号:2005A-801 日付:2006/02/14
研究課題異時点間消費と経常収支の関係
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 助手 北村 能寛
研究成果概要
経常収支の動向と利子率の関係に注目した研究を行った.

本研究は,経常収支の動向と利子率との経験的な関係に注目している.本研究の具体的なアプローチとしては,国際資本市場での利子率の変動に影響を受ける異時点間消費平準化行動を考え,その行動から導かれる経常収支の変動に注目している.本研究は,基本的にはBergin and Sheffrin(2000. Economic Journal 110, 535-558)で展開されたモデルを応用して,利子率が一定とされる従来の経常収支の異時点間モデル(simple model)を,利子率が可変的なモデルへと拡張している.利子率としては,短期金融市場金利(market model)と株価収益率(stock model)を考え,simple, market そしてstockモデルを日本,カナダ,英国のデータを用いてそれぞれ実証分析し,それらの現実の経常収支に対する説明力を比較している.そして,異時点間の消費最適化行動と国際株式市場の収益率(先進7カ国の株式市場平均収益率)との関連を経常収支のモデルに組み入れた場合,そのモデルが現実の経常収支の動向を非常に高い精度で予測することが前記3カ国のデータを用いた分析で明らかにされた.

上述した本研究の結果は,代表的個人が自らの恒常所得を一時的に上回る部分の所得を対外的に貸し付けることに加えて,その貸し付けを行うことで得られる収益率をも考慮して行動するものと解釈される.加えて,対外資産に占める株式保有の割合が低水準である日本で,世界株式収益率を考慮した場合,異時点間消費最適化モデルを用いると,現実の経常収支に対する説明力が極めて良くなるといった,一見すると奇妙な実証結果が得られた.この事実は,世界株式収益率が,収益としてのみならず,経済の先行きといった自らの恒常所得に関わる「情報」として,代表的個人の異時点間消費行動に影響するという側面から解釈されるという仮説を提示したことになる.