表題番号:2005A-605 日付:2008/05/22
研究課題不純物の空間分離ドーピングによるGaMnAs磁気特性の向上
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 堀越 佳治
研究成果概要
GaMnAsは希薄磁性半導体材料の一つで、不揮発性メモリーやスピントランジスタ材料として注目されている。これらデバイスの実現に
は室温以上のキュリー温度が必要となる。キュリー温度は正孔と磁性原子Mnのスピンとの交換相互作用により決定され、これを上昇さ
せるには高い正孔濃度とMn濃度が不可欠である。しかしMnを高濃度にドーピングすると、格子間Mn濃度が増加し、Mnによるアクセプタ
を補償したり、強磁性体MnAsが析出するなど、問題が生じる。したがってキュリー温度の上昇には格子間MnやMnAsの生成を減少させる
必要がある。本研究ではMnドーピングの高濃度化を目指し、まず多層のδドープ構造を導入することを考えた。この結果GaMnAsの磁気
特性は、δドープ構造の層間間隔に強く依存することを発見した。さらに層間間隔と磁気特性の関係を明らかにし、GaMnAsにおける強
磁性の発現機構を詳細に調べた。これによってMnドーピング構造の最適化を行い、キュリー温度を上昇を実現した。Mnδドーピングに
おける層間間隔の影響を調べるため、MEE法を用いて100層のδドーピング層を含むGaAs/MnGaAs試料を成長した。δドーピング層の層間
間隔を0~15MLの間で変化させた。δドープピング層のMn濃度は7%であり、層間はGaAsで満たした。このため各試料に含まれるMn原子の
総数は等しいが、層間間隔が広い程体積あたりのMn原子数は減少する。層間間隔を広げることにより、格子間Mnの形成あるいはMnAsの析出は著しく抑制された。一方強磁性の発現はMn濃度に依存することから、層間間隔の違いにより磁気特性に変化があらわれた。成長
した試料の磁気特性を評価するため、10 Kにおける磁化の磁場依存性を測定した。この結果層間間隔を広くする程、保磁力が低下し、
9 ML以上ではヒステリシスループは消失した。一方、飽和磁化は層間間隔が広い程大きくなることが明らかになった。さらにキュリー
温度は層間間隔が2~3MLで最大となり、さらに広くなるにつれて低くなることが明らかになった。層間間隔が狭いほどMn原子間の距離
が短くなり、Mn原子間の相互作用が大きくなる反面、層間間隔が<2MLと狭い場合Mn濃度が上昇し、格子間Mn濃度が増加するためと考え
られる。以上のように本研究ではδドーピングの層間間隔を最適化することにより、GaMnAsの磁気特性を上昇させることに成功した。
この知見をもとにGaMnAsの構造最適化を進め、さらなるキュリー温度の上昇を実現する。