表題番号:2005A-067 日付:2006/03/13
研究課題分子インプリントを医療用センサーおよび薬物送達システムに応用するための基礎研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 酒井 清孝
研究成果概要
近年、人工臓器用材料の開発において、生体膜の機能を人工膜で模倣する研究が広く進められている。生体膜の特徴的な機能として、分子認識をともなった輸送がある。我々は、分子認識能を有する分子インプリントポリマー(MIP)をグラフトした膜が、鋳型とした物質の存在下で溶質の拡散透過速度を変化させるメゲート効果モを見出した。MIPグラフト膜は、病因物質濃度に応じて薬物投与速度を制御する薬物送達カプセル、バイオセンサと同等の感度を有する安定な化学センサなど、医療材料に広く応用できる。 
MIP膜を医療用拡散透過速度制御膜として応用するためには、アミノ酸、ペプチド、糖といった生体関連物質に対してゲート効果を示すことが必要となる。昨年度、光学活性アミノ酸であるフェニルアラニンをインプリントした膜が、光学異性体を識別し、キラリティの一致する鋳型物質の存在でゲート効果を示すことを明らかにした。そこで今年度は、不斉構造が複雑なジペプチド、フェニルアラニル-フェニルアラニン(Phe-Phe)をインプリントした膜のゲート効果を評価した。その結果、鋳型とキラリティの一致するPhe-Pheの存在下で溶質の拡散透過速度を40%増大させるゲート効果が観察された。アミノ酸だけでなく、不斉構造が複雑なペプチドも、MIP膜のターゲットにできる可能性が示された。さらに、ボロン酸のcis-ジオール基とのエステル結合を利用してグルコース(Glc)をインプリントした膜も、鋳型とキラリティの一致するGlcのみに応答して、拡散透過速度を減少させるゲート効果を示した。鋳型物質結合前後においてGlc-MIP膜の含水率を測定した結果、鋳型物質結合後では明らかに含水率が低下した。これは膜の空隙率が鋳型物質の結合により大きく減少していることを示している。鋳型物質の結合にともなってcis-ジオール基が減少することで、膜にグラフトされたGlc-MIPが疎水化・収縮したため、溶質の拡散透過速度が減少したと推測される。