表題番号:2005A-066 日付:2006/02/22
研究課題中国・北部地域における「居住大院」住宅の集住形態に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 後藤 春彦
研究成果概要
□研究内容・成果
 近代期に入った中国では、都市における住空間の変化が全国各地に見られた。そのような情勢の中で、北部の都市に「居住大院」住宅が出現し、都市居住の需要を満たす主役となっていった。「居住大院」住宅とは、近代都市生活の需要に呼応した中庭式低層集合住宅であり、中国近代居住建築における「本土進化住宅」の一種でもある。本研究は、「居住大院」住宅の集住形態に関して調査・分析を進めた。研究の中で、集住形態を:「居住大院」住宅の集合体の形態及び機能という二つの面から見ることとした。研究の対象は、中国東北部の哈爾浜市の傳家甸地域における「居住大院」住宅エリアに注目し、保存状態が良好な二つの街区を選出した。
 研究の成果としては主に以下の内容である:
 1、傳家甸地域の「居住大院」住宅の形成期における歴史的背景を把握した:二十世紀初頭、哈爾浜は、鉄道建設と商工業の勃興につれて、多くの中国人労働者や商人が集まったが、鉄道付属地での居住が許されなかったため、隣接する傳家甸地域に住み始めた。次第に、中国人の商業も盛んになり、その経済力によって「居住大院」住宅は1900年代から二十余年の間に次々と建てられた。
 2、「居住大院」住宅を類型化して、各類型の集合によって形成した街区の形態的特徴を明らかにした:「居住大院」住宅の類型化:隣の建物との空間的関係によって、「居住大院」住宅を大きく「独立型」・「付着型」と二分類した。「独立型」とは平面の形は「ロ」の字を呈するタイプである。「付着型」とは隣の建物の壁を利用して中庭を形成するタイプであり、また、建物が中庭を囲む状態によって、「一」字型・「二」字型・「L」字型・「コ」字型、という四つに細分した。「独立型」と「付着型」の組合せによって、「居住大院」住宅街区が形成し、その形態的特徴としては、a、中国の歴史的都市によく見られる「街坊」のような空間構成と;b、外部の街路空間に対して、安全性を確保した密閉的な形態、の2点が認められた。
 3、街区ファサードの特徴を明らかにした:デザイン・サーベイで得られたデータに基づいて、「居住大院」住宅のファサードにおける5つの構成要素である雨樋・柱型・入り口・窓枠・パラペットを抽出した。構成要素にはロシア人がもたらした西洋式装飾と中国式の装飾が併用され、「中洋融合」が認められる。また、ファサードに、雨樋タイプと柱型タイプ、二つの類型が存在することを明らかにし、雨樋タイプは対象街区にある「居住大院」住宅総数の90%を占めるため、街区ファサードが雨樋による垂直方向の分割が顕著な特徴として見られた。
 4、街区の機能的性格を解明した:対象街区の形成当初の機能及び現在の機能を調査することによって、街区は昔も現在も、「下店上宅」という下駄履き住宅のような機能的性格を保ってきた。
 以上によって本研究は、傳家甸地域における「居住大院」住宅の集住形態を、街区単位の調査分析によって、「中洋融合」(形態)及び「下店上宅」(機能)という二つの特徴にまとめた。