表題番号:2005A-027 日付:2006/03/17
研究課題現代イギリス社会におけるアイデンティティ形成と他者性に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 専任講師 渡辺 愛子
研究成果概要
本課題は、イギリスにおける現代の国民アイデンティティが、20世紀における歴史的、社会的、文化的コンテクストのなかで、他者との対峙によってどのように形成され、現在いかに保持され、また表象されているのかを考察するものである。

イギリスのように、長き歴史にわたって、全世界的な規模での植民地政策を繰り広げることによって他国、他民族を侵略、征服してきた歴史をもつ国にとって、今世紀に入ってからの世界的権威の衰えがもたらす国民への精神的打撃は根深いように思われる。そして20世紀後半以降は、とくにそのイギリス自体が「他者」からの様々な形での侵入行為によって、逆に文化的、心理的植民を被る立場にあるといえる。本課題では、伝統的、権威的イメージの上に培われた「イギリス的」アイデンティティや「イギリス性」('Britishness'というよりはむしろ'Englishness'や'Whiteness')というものが、現代の多文化国家としての、あるいは、グローバル社会の一員としてのイギリスにおいて、いかに保持され、増幅されているのか、そして「他者」とみなされる人間や事象がこれによりいかに区別、排斥され、その反動として伝統的なイギリスのアイデンティティが強固にされているのかを多角的な観点からとらえなおし、いま現在も進行している社会問題とからめながら、探究・解釈することを主眼にすえ研究を行った。

研究期間中、「土着(white native)」のイギリス人にとってのナショナリズム高揚を触発する社会・政治・文化的事象、そしてそこから反動的に形成される「その他」のイギリス人との軋轢については、担当講義『現代批評の諸問題2』「大英帝国の残像」の主要テーマとしてとりあげることができた。さらに、2月に2週間ほどイギリスに滞在し、文献収集を継続して行ったほか、関連学会にも参加した。なお、「イギリス性」に着目したテーマとしては、20世紀前半の第一次・第二次世界大戦時におけるイギリスのプロパガンダ政策を論じた以下の論文が本課題に関連するものであり、2006年秋に刊行予定である。