表題番号:2005A-007 日付:2006/11/08
研究課題刑事訴訟における有罪答弁制度の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 田口 守一
研究成果概要
  2003年にカナダにおける有罪答弁の受理手続を現地で観察する機会があり、カナダにおける有罪答弁の受理は、アメリカ法とは異なり、より慎重な手続となっていた。アメリカ連邦刑事訴訟規則にいう「事実的基礎(factual basis)」と類似した「実体的正当性に関する事実的裏付け(response to the facts of substantially correct)」を要求し、場合により裁判官も関与する手続となっていた。その調査結果を論文にまとめた。
  有罪答弁制度の根底に横たわる問題は、刑事訴訟における真実主義をどのように理解するかの問題である。実体的真実主義への理解を深めるには、日本法の特色とされる「精密司法」を解明することが必要となる。そこで、精密司法の観念を提唱された松尾浩也教育の精密司法論を取り上げ、それが多義的な意味を有していることを明らかにし、「事実としての精密司法」、「伝統としての精密司法」、「理念としての精密司法」および「障碍としての精密司法」に分析したうえで、「精密司法」が「伝統」化や「理念」化するところに問題があることを主張した。
  当初の研究計画としては、本年度には日本型アレインメント制度の制度設計を考えていた。しかし、現行制度の改正が急速に進行することとなったので、現段階での立法論は取りやめ、まずもって改正刑事訴訟法において当事者主義的側面が強化された部分を析出して、改正法における当事者処分権主義的傾向を指摘した。その延長線上には日本型アレインメント制度も展望しうると考えたからである。また、2009年から施行される裁判員制度を見据えて、そこにおける実体的真実主義の意義を考えるために、刑事訴訟における事実認定というものが多元的であり、裁判員制度における事実認定もその1つの形態でありうることを指摘した。