表題番号:2004B-964 日付:2005/04/03
研究課題国際裁判管轄の合意に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 大学院法務研究科 客員教授 道垣内 正人
研究成果概要
 ハーグ国際私法会議において1992年のアメリカ提案を受けて議論が始まり、1996年から正式議題として審議されてきた民商事事件の国際裁判管轄と外国判決の承認・執行のためのグローバル条約は、当初は広い適用範囲を有する条約を目指していたが、アメリカと大陸法諸国との裁判管轄ルールをめぐる溝は埋まらず、適用範囲を専属的管轄合意に絞って、2005年6月に開催される外交会議において審議・採択される予定である。
 筆者は、この条約交渉に日本政府代表として、また、途中からは2名の公式レポーターの一人として関与してきたことを基礎に、この条約が日本の国際民事手続法に与える影響、問題点についての研究を行った。この条約は、専属的管轄合意についてだけのものである点で期待はずれであるとの評価が予想される。しかし、それでも、アメリカ、ヨーロッパ諸国そして日本等を含むその他の国々が批准することになれば、同じく当事者の合意が前提となる仲裁において、仲裁合意の効力を認め、仲裁判断の承認・執行を定めているニューヨーク条約 が重要な役割を果たしているように、管轄合意について、その効力を認め、それを管轄原因とする判決の承認・執行を定めるグローバルな条約ができることの意義は大きいとの評価もできると思われる。
 条約の基本構造は、専属的管轄合意を各国が原則として同じ基準により有効と認めることにより、それに基づいて提訴された国は裁判を行い、それに反して提訴された国は訴えを却下し、すべての締約国は前者の国の判決の効力を認める、というものである。しかし、各国で公序違反とされる場合は留保されているほか、理論上は同じ基準であっても異なる適用結果となり得ることは排除できないので、訴訟が競合したり、判決が抵触したりするリスクがあり、それへの対処が必要となるが、これについてのアメリカと大陸法諸国の対立は大きいこと、知的財産権の有効性に係る裁判について、特許等の登録を要する権利については登録国の専属管轄とすべきか否か、その場合、どの範囲の訴訟について専属管轄とするか、という論点をめぐっても対立があり、これらの解決なくしては安定的な運用をすることができる条約体制とはならないことを明らかにした。