表題番号:2004B-960 日付:2005/04/28
研究課題裁判員制度の下における刑事司法制度に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 大学院法務研究科 教授 川上 拓一
研究成果概要
標記研究課題の下に1年間弱研究を行ってきたが,特に,本年(2005年)秋から施行される「公判前整理手続」の運用論について考察を進めた。その理由は,裁判員裁判が法の所期したとおり順調にスタートを切り,制度として定着できるか否かは,ひとえに公判の始まる前段階で行われる「公判前整理手続」の運用の成否に掛かっているといっても過言ではないと思われるからである。
 内閣府の行った世論調査によれば,国民の7割近くの多数が,裁判員裁判に参加することに否定的な意見を持っているとの新聞報道がなされたが,裁判員裁判においては,裁判員として参加する国民の負担をできる限り軽減するという意味からも,連日的開廷・継続審理(刑訴法281条の6)を行い,無駄のない迅速かつ集中した審理が求められる。このような審理が行われるためには,公判開始前の段階において,検察・弁護両当事者による徹底した公判準備が行われることが不可欠である。具体的にいうと,訴因に関する双方の主張を交換して争点を明確化するとともに整理すること,そして,それが十分に行われるための前提として検察官による手持ち証拠の開示が不可欠となる。そのため,平成16年法律第62号による刑事訴訟法の一部改正により,いわゆる「公判前整理手続」という新たな争点整理と証拠開示の準備手続が設けられ,裁判員裁判の対象事件ではこれが必要的に実施されることとされた。
 ところが,この手続には裁判員は参加しないこととされており,裁判体を構成する裁判官と検察・弁護両当事者及び必要があれば被告人を参加させることができるとされている。しかし,この新たな準備手続で行われる争点の整理と審理計画の立案,立証計画の策定は,その後の公判審理の進行を成功に導くか,裁判員に失望を抱かせるに終わるか,そのキーとなると思われる。両当事者には,争点を明確化し,無駄のない的確な立証を行うことが期待されており,裁判所には,裁判員が争点について的確な判断を下せるような環境作りが期待されているといえよう。