表題番号:2004B-938 日付:2005/03/24
研究課題アフリカ諸国におけるガバナンス研究・調査(議会と行政府の関係)
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際教養学術院 客員助教授 片岡 貞治
研究成果概要
 民主主義の下において議会の占める役割は大きい。憲法を守り、立法機能と 国全体のガバナンスを監督する責任がある。さらに、行政、特に大統領、内閣の意思決定、行動、権力の行使を監視・抑制する責任がある。最近民主国家としての制度が整いつつあるものの、ひよわな民主主義であり、大統領、内閣による権力の乱用、恣意的な意思決定に対してチェック・アンド・バランスの機能を果すことが要請されている。サブ・サハラ・アフリカ諸国では独立はしたものの、文化、言語の異なる多民族の寄り合い国家であり、国民国家の意識は未だに希薄な国も多く、議会は多民族の集合としての国家のシンボルであるばかりでなく、大統領と共に国民を統合する責任を共有している。議員は国民の預託にこたえて民主的な議会の運営を行なう責任があり、そのための知識とスキルを身につけることが期待されている。
 1980年代の後半から90年代にかけて、多くのサブ・サハラ・アフリカ諸国は民主化を進めている。多くの国にとって、民主主義への移行は、長期間の一党制、大統領専制、あるいは軍事政権を経ての新しい経験である。また、幾つかの国にとっては、紛争から平和への移行であり、軍事的な手段による対立の解決から平和的な手段による解決への制度造りへの機会でもある。複数政党制の導入、強制されない自由な選挙制度の下での政権の移譲が多くの国で見られるようになった。しかし、残念ながら表面的な変化の域を出ないと判断せざるを得ない結果も多く見受けられる。
 一党制の下では、議会は大統領、内閣の延長であり、政府、政党が決定した政策のハンコをつくだけの機関であった。当然の事ながら議会の独立性は無視され、憲法によって与えられた権限でさえも事実上実行することはできなかった。現在、民主化が進められている国においても、議会は治指導者によるパトロネジ・システムや権力の独占と言う遺物と戦わなければならない。憲法改正により複数政党制となっても、依然として大きな権限が大統領に与えられ、議会の運営規則、規約には一党制のなごりが多く残っており、民主化の制度化に少なからざる障害となっている。例えば、権力が独占されていた時には、法による統治、「法冶」ではなく、人による統治、「民冶」であり、人の「コネ」が利益の分配に繋がっていた。この半制度化されたパトロネジ・システムは、議員に対して選挙民による仕事の斡旋、学費、医療費などの要求として根強く残っており、議員の大きな負担となっている。これが議員による汚職、経済的な力のある者への依存等に繋がることは容易に推測できる所である。
 平和が最近達成された国における議会は、多くの困難に直面している。国家規模の選挙は、紛争当事者達の和平合意の終点であると共に、民主化への出発点ともなっている。しかし、多くの場合平和への移行は完全ではないし、民主化への国民、政治指導者の心構え、制度の構築は不充分での出発となっている。議会は新な憲法の作成、議会運営の規則、規約を作るところから始めなければならない場合もある。加えて、議会運営に必要は物理的な施設、機材でさえ準備が整っていない状況での幕開けとなる。複数政党制の下での選挙においても、議会では与党が絶対多数の議席を占める場合が多い。野党の少数の見解は往々にして無視され、民主主義の原則である権力の行使への制限が、野党によって実行する事が事実上不可能になっている。一党制の時と変わらない議会と大統領、内閣の関係が見られる事もしばしばである。実質的に議会がその権限を行使できるか否かは、議会における議席の分配、政党・議員の能力、議会の運営規則によるところが大きい。
 複数政党制の下でしばしば、「国家統一政府」が組織されるが、多数党の見解、利益が追求される場面が多く見られるところである。どの政党も決定的な議席を獲得する事ができず、連合政府の成立も最近のアフリカにおける見なれた光景となってきている。このような場合には、複数の政権政党の政策、主張が政治に反映されることになる。今後アフリカにおいては多くの政党が結成され、連合政府を組織する場合が多くなると考えられ、民主化の見地からは望ましいことであるが、離合集散の激しい国においては政治の安定に必ずしも繋がらない恐れもある。
 民主的な議会においては、 健全な野党の役割が重要であるが、政治指導者にも、国民にもこの事実は良く理解されていない。野党は次期選挙での政権の獲得、あるいは、与党との権力の共有の機会を狙い、野党として政府、与党の権力の抑止機能を重視しているとは言い難い。パトロネジ・システムの長く続いた政治においては、容易に消えない政治習慣であろうが、健全な議会の運営のためには、民主的な政治における野党のあり方をかえて行く事が必須である。
 西部の一部のアフリカ諸国(ガーナやセネガル)を除いて、議会は依然として脆弱である。ここにアフリカ諸国における民主主義定着の鍵が隠されていると考えている。