表題番号:2004B-922 日付:2006/11/17
研究課題大腿屈筋の機能分担-膝前十字靱帯再建例での検討-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) スポーツ科学学術院 教授 福林 徹
研究成果概要
① 死体解剖による半膜様筋,大腿二頭筋,半腱様筋、薄筋の筋長,筋線維長,羽状角の計測:6体の計測結果では四筋とも筋長は25 cm程度で同一である.半膜様筋,大腿二頭筋は23度の羽状角を持つ半羽状筋であり,筋線維長は6 cm程度と短い.一方半腱様筋,薄筋は紡錘筋であり,羽状角はなく筋線維長は平均24 cmと長い.
② 筋力の測定:術後1年以上を経て術前のスポーツに復帰した前十字靱帯再建選手に対し筋力計測器(Biodex3)を用いて,腹臥位(股関節伸展位)の肢位で膝関節30度,45度,60度,90度,105度での等尺性屈曲筋力を測定した.30度,45度では健患側差はないが,90度,105度で患側の筋力が30%程度低下が明らかになった.
③ 筋体積の測定:MRIを用いて膝関節裂隙から坐骨結節までの大腿筋のT1強調の連続水平横断画像をスライス厚10 mm,スライス間隔2.5 mmで作成.NIHイメージより半膜様筋,大腿二頭筋,半腱様筋の体積を計算した.腱が採取された患側の半腱様筋では健側の70 %程度に筋体積は萎縮しているが,半膜様筋,大腿二頭筋は健患側で差異が無く代償性肥大が見られなかった.
④ 積分筋電値(I-EMG)の測定:ホルター型筋電計(ME-3000P4 MEGA社)を用いて半膜様筋,大腿二頭筋,半腱様筋の表面筋電値を筋力測定と同一肢位で最大筋力の50% 時に測定した.半膜様筋,大腿二頭筋でのI-EMGは30度,45度膝屈曲位に比較して90度,105度屈曲位では健患側とも明らかにその値が低下した.半腱様筋では健側90度屈曲位でもI-EMG値の低下は見られない.一方患側では半腱様筋はその特性は失われ,半膜様筋に類似した減少パターンを示した.
⑤双極性ワイア電極(TN201-231, ユニークメデイカル)を併用し健常人10名で④と同じ実験を試行した.結果として④と同様の結果が得られ表面電極による信頼性が確保された.
実験①~⑤により半腱様筋,薄筋は構造また機能の両面から半膜様筋,大腿二頭筋と明らかに異なること.この腱をACL再建のため採取することにより半腱様筋は術後機能不全に陥るが,これを半膜様筋,大腿二頭筋では補い得ず,結果的に深屈曲位における筋力低下が生じると推察される.