表題番号:2004B-859 日付:2005/11/21
研究課題分子型QCAを目指した混合原子価環状四核錯体
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 助教授 山口 正
研究成果概要
 当初目的とした拡張Creutz-Taube 錯体[{(NH3)4Ru}4(pz)4]n+ (pz = pyrazine) の合成には至らなかったが,各Ruに配位した4つのNH3配位子を四座配位子である1,4,7,10-tetraazacyclododecane (= cyclen) により置換した誘導体,[{(cyclen)Ru}4(pz)4]8+,を合成しその性質を調べた。CH3C6H4SO3-塩として単結晶を得,X線結晶構造解析他を行い,錯イオンの電荷が8+,すなわち,すべてのRuがⅡ価であることを確認した。また,電気化学的測定を行い,二段階の酸化還元挙動(二段目の酸化過程はさらに分裂していると思われる)を示すことを明らかにした。酸化還元波が大きく二段に分裂してはいたが可逆ではないため,QCAとして用いるには不適当であることが明らかになった。この非可逆性について検討するために1/4ユニットのモデル錯体である[(cyclen)Ru(py)]2+を合成し,その酸化還元挙動を調べたところ,同様に非可逆な酸化還元挙動を示すことが明らかになった。このことから配位しているcyclenが可逆性を悪くしていると考えられ,cyclenが環状配位子であることや,cyclenが酸化を受けてイミン化を起こしやすいことなどが関係しているものと考えられる。
 このcyclen誘導体に関しては,J. R. Long らが合成を行っているが, Longらはこの錯体が単離状態で+9の電荷を持ち,四段階の可逆な酸化還元挙動を示す(しかも,我々の結果と電位領域が大きく異なる)と報告している(J.Am.Chem.Soc. 2002, 124, 9042)。すなわち,我々の結果とLong らの結果が異なっているわけであるが,(1) Longらの測定に用いた試料の同定が元素分析のみ依っていることに対して,我々の試料はX線結晶構造解析を行ったものと同じ結晶を用いていること,(2) 四量体合成時にcyclenが酸化されイミン化したものを生成し,生成物が種々の混合物となりやすいことが明らかになったこと,(3) 1/4ユニットのモデル錯体である[(cyclen)Ru(py)]2+が我々の結果と同じ電位領域において不可逆な酸化還元挙動を示すことなどから,Longらの結果が誤っていると判断した。