表題番号:2004B-858 日付:2006/03/08
研究課題生物振動子系における時空間パターンの遷移現象の解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 助教授 高松 敦子
研究成果概要
生物系はそのまま観察したのでは複雑である。近年の複雑系の科学または数理生物学の発達により、複雑な振る舞いをする生物系についても数理的な考察が可能となってきた。生物系の数理的な扱い方には、大きく2つの流れがある。1つは、系や現象に特化したリアルな数理モデルを用いる方法であり、もう1つは、汎用的でシンプルな数理モデルを用いる方法である。後者は、生命現象について一般的な理解を深めるには重要な手法であるが、単純すぎるが故に、実験系における結果との比較が困難であった。そこで、逆に、生きたままの生物系を単純な要素にいったん分解し、システムとして人工的に再構築した上で、システマティックな観察を行える系を構築すれば、シンプルな数理モデルによる解析結果でも、直接的な比較が可能となる。研究代表者はこれまで、真正粘菌変形体という生きた細胞の形を、マイクロ加工技術を用いて制御し、細胞の要素間の相互作用などのパラメータを系統的に制御できる実験系を構築してきた。真正粘菌は振動性の細胞であり、細胞の部分と部分をつなぐチューブ構造のサイズを制御することにより相互作用を制御できる。その条件下で、振動の時空間パターンの観察・解析をおこなってきた。その結果、相互作用強度(パラメータ)に従い、結合振動子系と呼ばれるシンプルなモデルから予想される時空間パターンを得た。しかし、(1)1つの固定されたパラメータに対し複数の時空間パターンを得られること、(2)それらの複数の時空間パターン間を自発的に遷移するという、シンプルなモデルだけでは記述できない現象が見いだされた。この研究では、その結果をさらに発展させ、各相互作用強度毎に現れる振動パターンとその頻度、遷移規則を詳細に調べた。その結果、出現パターンの出現頻度には相互作用強度依存性があり、それに伴いパターン間の遷移確率も変化することがわかった。このような自発的に状態間を遷移する現象は、カオス的遍歴やヘテロクリニックサイクル、巡回カオスなどによって生じると理論的には予想されている。しかし、この分野の理論的解析は近年始まったばかりであり、体系化されているわけではない。この研究で観察された実験解析結果を新しい数理モデル構築へフィードバックするための検討を引き続き行う予定である。