表題番号:2004B-856 日付:2005/04/01
研究課題強相関電子系における不均一電子状態の低音STMによる研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 松田 梓
研究成果概要
 本研究は、低温STMを用いて高温超伝導体の超伝導状態で観測される超伝導ギャップの不均一分布の起源をさぐる目的で企画された。担当者は2004年度新任で、本計画に使用する低温STM装置は、前任の研究機関(NTT物性科学基礎研究所)より貸与を受け、早稲田大学に移設・再構築する予定であった。当初の研究の企画は、再稼働させた実験装置をベースに、装置を改造し、不均一効果に対する結晶の歪み効果を調べる計画になっている。計画自体は、1年で成果を出せる性格のものでなく、数年間かけて実施することが前提になる。
 担当者が早稲田大学に着任後、実験装置の移設が実現したのが2004年9月であり、移設後順次電源工事、ガス配管工事、測定用ネットワーク構築などのユーティリティ接続作業を行い、2004年11月頃に常温用STM装置、さらに12月頃にSTM装置一号機を稼働状態にした。本特定課題で提供された資金のほとんどは、以上の実験装置再稼働のための機器購入や装置改修にあてられた。その後、常温用STM装置においては、超高真空下で、(1)高温超伝導体のBi-2223(Bi2Sr2Ca2Cu3O10+d), (2) Bi系層状Co酸化物(Bi2Sr2Co2Ox)、の表面観測を開始し、結果はまだ予備的であるが、何れも格子像を得る事に成功した。両物質とも格子像を得る事自体世界初の試みである。特に、後者のCo層状酸化物は、電子状態の解明が進んでおらず、新たな発見が期待される。今後さらに精度の高い観測を行い、低温測定と合わせて電子状態の解明を進める。低温用STMについても、稼働状態になって以来、液体窒素温度77Kでの測定に成功し、格子像も徐々に取れるようになってきたが、稼働を始めてからまだ日が浅く、物理的に意味のある成果はまだ出ていない。装置的にも、まだ完全な状態とは言えず、電気的ノイズの低減が重要な課題である。その後、本来の特定課題の研究テーマである、不均一性と歪み効果の関係について調べてゆく予定である。