表題番号:2004B-854 日付:2005/03/21
研究課題日本の中小企業における経営者交代と組織変革の関係
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 助手 山野井 順一
研究成果概要
 本研究は,経営者交代が齎す組織変革への影響とその関係を媒介する要因を,統計的分析により実証することを企図する.
 経営者交代と組織変革を扱った先行研究では,経営者交代は組織変革を促すという関係が演繹されているものの,必ずしも全ての研究がその関係を確認しているわけではない.そのひとつの要因として,経営者の企業に対する影響が大企業においては大きくないことが推測される.よって,本研究は中小企業を対象とし経営者交代と組織変革の関係の実証を試みる.また,経営者交代と組織変革の関係を媒介するひとつの要因とされている後継者の出身(successor’s origin)については,先行研究において一意の扱いを受けておらず,その影響も不定である.新たな経営者つまり後継者が内部昇進か外部招聘かを問題とする後継者の出身の研究では,後継者が当該企業に入社した時期により,内部者・外部者を二項変数として分類している.しかしながら,その区分は研究間で差があり,構成概念妥当性に疑義がある.内部者は当該企業の価値観や規範が染み付いており,外部者は当該企業のものとは異なる他企業の価値観や規範が染み付いている,という論理展開が先行研究で用いられている.よって,内部者・外部者の概念は,後継者の企業への社会化の度合として捉えられよう.本稿では,組織変革を経営戦略,組織構造の二つに区分し,以上の関係を検証した.
 研究方法は,以下の通りである.サンプルは,2000年度に経営者交代が発生し、前後3年間で経営者交代が発生していない中小企業101社である.中小企業のデータは,日本経済新聞社の『会社総鑑(未上場企業版)』の各年度より得た.独立変数は,社長の交代,後継者の当該企業での勤続年数,後継者の他企業での勤続年数を採った.従属変数については,経営者交代前から交代後にかけての当該企業における事業特化度の変化率と従業員数の変化率を,それぞれ戦略の変化,組織の変化の変数として採用した.コントロール変数は,先行研究に倣い,財務的危機,統治構造などを採った.以上の変数を用いて,重回帰分析を行った.
 研究結果は以下の通りである.経営者の交代は,特化度の変化率には統計的に有意な正の影響を与えていた(5%水準で有意)が,従業員数の変化率については統計的に有意な影響は与えていなかった.また,後継者の当該企業における勤続年数は,特化度の変化率に有意な負の影響を与え(5%水準で有意),従業員数の変化率については,有意な影響は確認されなかった.最後に,特化度の変化率については有意な正の影響が確認でき(10%水準で有意),従業員数の変化率については,有意な影響は見られなかった.
上記の結果より,以下の結論が得られる.中小企業においては,経営者交代は組織変革を促すことが確認された.また,後継者の自社への社会化の度合が高いほど組織変革は妨げられ,他社への社会化の度合が大きいほど組織変革を促進されていた.しかしながら,上記の結果は,戦略の変化にのみ見られ,組織の変化については見出せなかった.この事実は,経営者交代が経営戦略と組織構造に対して,異なるメカニズムで作用していることを示唆する.