表題番号:2004B-846 日付:2005/03/23
研究課題アジアの金融・為替制度改革とマクロ経済運営の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 教授 谷内 満
研究成果概要
 為替レート制とマクロ経済運営の問題が国際的に大きな争点となっている中国に焦点を当て研究を実施した。
 中国の経済的な躍進を背景に、米国や日本において、現在1ドル=約8.3元で固定されている中国元は実力より過小評価されており、したがって元切り上げが必要との見方が根強い。本研究ではまず、元過小評価論の主要な論拠を批判的に検証した。現在の元高圧力の背景には歪んだ資金流出入構造があること、そして現状において元が貿易の価格競争力から見て割安であり切り上げが必要であるとは必ずしも言えないことを明らかにしている。中国の資金流出入構造の特徴は、直接投資という形での大量の資金流入が続く中で、中国からの資金流出(直接投資、証券投資、外貨預金、融資など)は、最近少しずつ緩和されてきているものの、依然厳しく規制されているという点にある。また、規制逃れのヤミ資金の流出入も大きい。このような資金流出入の「歪んだ」構造からくる元の増価圧力を、元切り上げで解消するとしたら、極端に輸出抑制的な「歪んだ」為替レートになる可能性がある。また、購買力平価をベースにした元過小評価論なども論拠が弱く、元を切り上げる必要があるとの議論は支持されないことを論証する。
 本研究ではまた、90年代半ば以降維持されている固定為替レート制が中国経済に果たしてきた役割を評価し、今後の為替レート制度のあり方を検討した。中国は70年代末以降90年代半ばまで、20%前後の高インフレを2度経験するなど物価水準が不安定に変動したが、物価の安定した米国の通貨ドルとのペッグ制は、ノミナル・アンカーとして中国の物価安定をもたらす役割を持った。しかし、最近では逆に固定レート制を維持することが経済過熱を助長する効果を持つようになってきており、ノミナル・アンカーとしての固定レート制の役割も終わりつつある。今後の中国の為替レート制を検討するに当たっては、開放経済のトリレンマの観点が重要である。中国は中長期的な成長を確保するためには、国際資本市場を活用することが重要となり、したがって今後資本取引の自由化を図っていくことが必要となる。一方、中国のような大国経済にとっては、他国の金融政策に制約されることなく自国の経済情勢に応じて金融政策をとれるようにしておくこと(=金融政策の独立性)が重要である。このことは、開放経済のトリレンマの関係から、中長期的には変動為替レート制に移行する必要があることを意味する。資本取引規制の緩和、為替レートの変動幅拡大に当たっては、脆弱な国内金融システム強化が不可欠であり、国内金融システムの強化には時間がかかることを勘案すると、為替レートの変動幅拡大、資本流出入構造の是正には、ある程度漸進的アプローチをとらざるを得ない。