表題番号:2004B-826 日付:2005/03/10
研究課題1860-1910年代におけるドイツ・トゥルネン運動の政治的・社会的意味
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 助手 小原 淳
研究成果概要
 2004年度中は、当助成を受けて、下記の二点の学会報告及び一点の論文の執筆を行った。各研究成果のうち、「現代史研究会」での報告では、帝政期におけるトゥルネン運動の数量分析と機関紙等に依拠した言説分析を通じて、トゥルネン運動を分析するうえでの概念としての「市民」、「ネイション」、「フォルク」の重層性と相互関係を明らかにした。また「京都大学読書会」での報告では、19世紀初頭から第一次世界大戦に至る時期のトゥルネン運動の概況を確認するとともに、ナショナリズム研究及び市民層研究におけるトゥルネン運動の重要性を指摘した。2005年度中の掲載が予定されている『西洋史学』における論文では、1860年代におけるトゥルネン運動の実態とそこにみられるネイション意識の在り様を、ドイツ現地の文書館史料を利用して論じた。これらにより、研究課題である「1860-1910年代におけるドイツ・トゥルネン運動の政治的・社会的意味」に関しての基礎研究の過半を終了した。
 もっとも、私が上述の研究課題の達成を通じて実現しようとする近代ドイツにおけるナショナリズムの歴史的意味の解明のためには、さらなる研究が必要であり、本年度の研究活動は長期的な研究計画の一部に過ぎない。しかしながら、従来のドイツ史研究において多くが論じられてこなかった分野に関する研究を推し進めた結果、今後、内外のドイツ史研究に一石を投じる手がかりを得られた。具体的には、①いまなお未解明の点が多い日常史的レヴェルでの民衆史研究として、トゥルネン運動に対する考察が有する可能性を提示した点、②なお充分な議論が行われていないネイション意識およびフォルク意識の研究に関して、一定の方向性を示した点、③トゥルネン運動の実態に関して、旧来の研究が明らかにしてこなかった諸点を明確にした点等が、成果として挙げられる。
 本年度の助成はとりわけ、ドイツの文書館「プロイセン機密文書館」が所蔵する一次史料の複写・取り寄せをはじめ、多量の史料及び研究文献の収集に大きく役立った。下記の研究成果はいずれも、これらの史料・文献を利用している。しかしながら、史料・文献の収集に関しても、なお作業を継続する必要があり、とりわけ未刊行の文書館史料の渉猟をさらに続行する必要性を強く感じている。