表題番号:2004B-822 日付:2005/04/04
研究課題ドン・デリーロの作品における主体の変容と暴力的に排除不可能な他者との関係の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 専任講師 都甲 幸治
研究成果概要
まず2004年8月2日から15日まで二週間アメリカに滞在し、資料集めを行った。具体的には、カリフォルニア大学とコロンビア大学を訪れ、関係する論文や著作を調査し収集した。その間、ドン・デリーロの作品に関係する都市や場所も訪れた。ロサンゼルスのワッツ・タワーやニューヨークのグラウンド・ゼロを実際に見て回ったことにより、デリーロ文学の理解が深まった。その後も日本で継続して資料収集と調査を行ってきた。論文の執筆も開始した。その一部は、2005年3月26日、慶應大学三田キャンパスにおける日本アメリカ文学会東京支部例会で、「ゴミとしての世界――ドン・デリーロ『アンダーワールド』をめぐって」と題して学会発表を行った。東京大学、慶應大学、上智大学、中央大学などの優れた研究者たちに多くのコメントをもらい、論点や問題点を明確にすることができた。内容は以下のとおりである。
「1953年、ソ連の核実験成功で幕を開けた冷戦時代からの五十年間を描いた『アンダーワールド』で扱われるのは、普段は見えず、言葉で表されることのないものの世界である。犯罪世界、貧困なマイノリティの世界、地下深くに埋められた核のゴミ。自他を明確に分け、敵による汚染を徹底的に封じ込めようとする冷戦的思考は、ありとあらゆるものをゴミとされた世界に放り込もうとする。冷戦後に勝利した多国籍企業もこの思考方法から自由ではない。だが自他の区別は決して自明なものではありえず、自己自身もやがては暴力的にゴミに分類される運命にある。ならば、新しい自己のありかたが模索されるべきであろう。そこでデリーロが導入するのが、ゴミを再編成することによって産み出された芸術である。ゴミを読み替ること産み出される、多孔質でネットワーク的な自己。こうしたものを夢想する力が、真の冷戦後を迎えるためには必要なのだ。」
続いて2005年10月15日には北海道における日本アメリカ文学会全国大会で「ケネディ・冷戦・文学――ドン・デリーロ『リブラ』について」と題して発表予定である。なお、当論文は書きあがり次第、日本アメリカ文学会の雑誌に投稿予定である。