表題番号:2004B-820 日付:2007/04/16
研究課題大学生における児童虐待等の被害体験の実態及びそれらの体験後の経過について
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 助教授 藤野 京子
研究成果概要
 児童虐待等の被害経験が、その人の心身に及ぼす影響は大きいことが予想される。法務総合研究所では、平成12年に全国の少年院在院者に対して、また、平成14年に全国の一般市民に対して、アンケート調査を実施し、被害体験の過多を比較している。ただし、両調査は調査対象となる年齢は著しく異なっており、それを比較することには、やや疑問がもたれるところである。そこで、本研究では、平成12年に実施した全国の少年院在院者調査の調査対象者の年齢層と比較的年齢層が近い大学生を調査対象とすることで、非行少年とそれ以外の者との被害体験の過多等を比較することを第一の目的とした。このほか、児童虐待以外の他の被害状況、そうした被害経験が及ぼす影響についても明らかにすることとした。
 本調査の有効回答者数は、266名(内訳は男子90名、女子175名、性別不明1名。平均年齢は20.8歳)であった。
 その結果、法務総合研究所が行った一般市民を対象とした場合の比較結果と同様、少年院在院生に比べて大学生は、児童虐待を含む各種被害経験を有する比率が低いことが示された。また、少年院在院生で見られた傾向と同様に、家族から被害を受けた者(親に限らず兄弟等同居している家族全員を含む)の方が受けない者に比べて、家族以外から被害を受ける確率が高くなるとの結果も得られた。
 加えて、就学前、小学校時代、中学校時代、高校時代のそれぞれに時期について、児童虐待を含む各種被害経験を有する者と有しない者を比較すると、前者の方が、自他への暴力行為などの各種問題行動、体調不良、健全でない心的状態などを伴う確率が高いことが示された。また、調査時点における精神健康度調査を比較してみると、前者の方が、健康度が不良である傾向がみられ、加えて、不信感について測定した結果についても、前者の方が不信感が強い傾向にあるとの結果が得られた。
 これらの結果からは、児童虐待を含む各種被害経験については、その被害を受けた時点にとどまらず、それに続く後の生活においても大きな影響を及ぼしていることが示されたと言える。