表題番号:2004B-819 日付:2006/03/02
研究課題単語の形態-意味対応の一貫性と意味検索速度
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 助教授 日野 泰志
研究成果概要
 我々が単語や文章を読む際には、与えられた視覚情報から対応する意味情報を復元するという作業が含まれる。並列分散処理モデルによれば、単語の視覚情報に基づく意味検索は単語の持つ形態―意味間の対応関係の性質に依存する。
 そこで、本研究では、形態類似語間の意味の類似性の程度に注目して、単語の形態―意味対応の一貫性の程度を把握し、この一貫性の程度の違いが意味検索速度に効果を持つかどうかをカテゴリー判断課題を使って検討した。例えば、「彼女」という二文字単語のどちらか一文字を別の文字に置き換えて作成される形態近隣語は語彙数36,780語の辞書を使って検索すると30語存在する。この形態類似語のほとんどは「彼ら」「少女」など、「彼女」と同様に生物カテゴリーに属する単語である。このことから「彼女」という単語の形態―意味間の対応関係は高い一貫性を持つと考えることができる。これに対して「秘書」に対する形態近隣語を検索すると、全部で59語存在するが、そのほとんどは「秘密」「辞書」など、生物カテゴリーには属さない単語である。したがって「秘書」という単語の持つ形態―意味対応の一貫性は低いことになる。
 このように二文字単語の形態―意味対応の一貫性の程度を操作し、それぞれの単語に対するカテゴリー判断(生物―無生物判断)課題の反応時間を比較した。カテゴリー判断課題を用いたのは、この課題の遂行に意味検索が不可欠であると考えられるからである。この実験の結果、形態―意味対応の一貫性が高い「彼女」などの単語に対する反応時間の方が「秘書」などの一貫性の低い単語に対する反応時間よりも短かった。この効果は漢字熟語に特有なものなのか、また、別の課題においても同様の効果を観察可能かなど、最終的な結論に至るには、さらなる検討が不可欠であるが、少なくとも現段階においては、漢字熟語に対して形態―意味対応の一貫性の程度の違いが意味検索速度に効果を持つことが示唆された。