表題番号:2004B-818 日付:2005/03/23
研究課題1970年前後のニューヨークにおける草間弥生・小野洋子の活動について
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 助教授 坂上 桂子
研究成果概要
本年度は草間彌生については東京国立近代美術館、小野洋子については東京都現代美術館ほかにてそれぞれ回顧展が開催されたこともあり、これまでの代表的作品を実際に概観しながら、二人の作品について考察する大変よい機会であった。そのため、研究の中心的テーマであった、①二人の作品における日本的要素について、②フェミニズムの視点について、それぞれ具体的に検討をすることができた。その結果、同じニューヨークを拠点に同時期に活動を展開しながらも、それぞれの立脚点がかなり違うことが明らかになった。
まず、小野については、一般にしばしば海外における評価で強調される日本的な要素よりも、概してむしろ西洋的な要素が強い作品づくりであることがわかった。また、フェミニズムの視点については、欧米においていわゆるフェミニスト・アートが台頭する70年代以前から、かなり意識的な作品を展開しておりその意味で先駆者としてより積極的評価がなされるべきであると思われた。草間については、小野よりもずっと日本的要素を意識した作品を展開していることがわかった。また、フェミニスト・アートとしての評価は、作品の性質上これまであまりされていないものだが、実際には、小野の作品ほど政治的ではないにしろ、草間についても今後フェミニスト・アートとしての側面も十分指摘されるべきであると感じられた。
 ニューヨークにおける調査では、新しい近代美術館での展示が明白に物語っているように、草間はアメリカでも一定の評価を得、現代アートの文脈における重要な一人として組み込まれていることがわかった。一方、小野については、コンセプチュアル・アート、およびフェミスト・アートの先駆的存在であるにもかかわらず、ヴジュアル・アートの文脈においていまだ一定の評価を得ていないことが明らかになった。これらは、小野・草間の作品がいかにニューヨークのアートシーンにおいて紹介されてきたかに大いに関わる問題であるが、今回の調査では、まだ資料を完全に分析するまでにはいたっておらず、今後はこの問題を中心にさらに研究を展開していくことが課題として残された。また、今回は、小野と草間のそれぞれの活動についてのみ考察の対象としてきたが、今後は在ニューヨークの周辺の日本人アーティストとの比較考察がさらに必要となることが、課題として残された。