表題番号:2004B-812 日付:2005/09/29
研究課題熟議民主政論の起源とその展開 そして現在-理論と歴史-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 助手 金澤 孝
研究成果概要
 標記の研究課題につき、本年度は主として熟議民主政論の「現在」、具体的には「理論」面の文献研究を行った。
 はじめに、熟議民主政論に関する代表的アンソロジー、JON ELSTER ed., DELIBERATIVE DEMOCRACY、JAMES BOHMAN & WILLIAM REHG eds., DELIBERATIVE DEMOCRACYの2冊を検討し、熟議民主政論には手続的民主主義と実体的民主主義の2つの立場があり、前者の思想的バックボーンがハーバーマス(Juergen Habermas)、後者がロールズ(John Rawls)であることを確認した。
 担当者自身はロールズの立場に近いため、次にロールズの著書POLITICAL LIBERALISMとそれ以降の著書・論文、加えて関連する諸文献(FORDHAM LAW REVIEW 72巻が特集する2003年11月の追悼シンポジウム等々)を検討し、彼の政治的リベラリズムが現在のアメリカ熟議民主政論の議論枠組であることを再度確認した。
 さて、担当者は課題研究と並行して熟議民主政の代表的論者の一人であるサンスティン(Cass R. Sunstein)の憲法学研究も進めていたのであるが、彼はロールズに依拠しながらも他方においてリベラリズムの枠には収まらないプラグマティズム思想の影響が強いことも明らかになった。熟議民主政の観点からは「表現の自由」論を見ておくべきだと考え、彼の論説も収める最新のアンソロジー、LEE C. BOLLINGER & GEOFFREY R. STONE eds., ETERNALLY VIGILANTと関連著書・論文を検討した。このとき担当者が特に注目したのはデュウイ(John Dewey)の民主主義論に依拠するポゥスト(Robert C. Post)である。そこから「憲法文化」が重要な鍵となることが明らかになった。
 こうして本年度は、リベラリズムとプラグマティズムを前提に「表現の自由」と「憲法文化」を二本柱として熟議民主政の理論的側面を検討したことになる。ひきつづきこれらを「歴史」的側面から研究する予定である。