表題番号:2004B-808 日付:2006/04/27
研究課題国際紛争の解決プロセスにおける国際裁判の意義
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 河野 真理子
研究成果概要
本研究では、国際裁判が国際紛争の解決においてどのような役割を果たすのかを検討することを目的としている。国際裁判へのひとつの批判として、しばしば指摘されるのは、歴史的あるいは政治的に重要な事件は必ずしも裁判手続きによって解決されていないということと、国際裁判の判決を強制する機関が存在しないという点である。
 国際裁判で重要な事件が必ずしも国際裁判によって解決されないという批判については、イランやイラク、北朝鮮、あるいはパレスティナといったタイプの紛争は国際裁判による解決が行われていないことを考えれば、現在も妥当する側面もある。しかし、1990年代以降のとりわけアフリカ大陸における重要な領土紛争(たとえば、リビアとチャドの国境、カメルーンとナイジェリアの領域紛争)の解決や改善に国際裁判が果たした役割を考えれば、国際裁判が一定の役割を果たすようになっていることがわかる。また、国際裁判の判決を強制する機関がないという批判については、国際裁判の判決の履行のあり方が国内の裁判所の判決の履行形態と根本的に異なっていることが考慮されなければならない。
 本研究で、この1年間、さまざまな国際判例を検討してみたが、その中で以下の2つのことを結論付けることができると考えている。一つは、国際裁判という紛争解決手続きは、特に発展途上国を中心とした諸国に紛争解決手続きとして多用されるようになっているということである。この点は、国際司法裁判所や、仲裁裁判の判例が特に1990年代以降、急増していることから証明さうるし、さらにそれらの裁判所の判決が当事者間にもたらした解決への糸口からも明らかである。
 第二に、国際裁判の紛争解決における役割は、必ずしも、終局的な判決のみではかってはならないという点である。国際裁判の判決は、当事者が履行する意思を持っている場合には、完全な形で履行されるが、当事者がそのような意思を持たない場合でも、当事者間の関係を変化させる効果を持っていると考えられる。そして多くの国際裁判の事例では、むしろこのような当事者間の関係への積極的な関与の方が実質的な効果を持つようになっているといってよい。国際裁判という手続きの意義が紛争解決プロセス全体の中で相対化していると結論付けることができよう。今後、国際裁判の検討には、こうした相対的な効力も考慮しなければならないといえる。