表題番号:2004B-801 日付:2005/03/23
研究課題グローバル化と労働政治の変容
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 久米 郁男
研究成果概要
申請者とキャサリーン・セレンNorthwestern University教授は、スウェーデンにおいては1980年代に、グローバル化圧力の下で従来型労使関係制度が大きく変化するとともに、90年代にはいるとその変化は新たな労使関係調整制度の成立という形で安定化したのに対して、日本とドイツは90年代以降グローバル市場の圧力の下、従来型制度の「崩壊」過程が継続し新たな均衡に至っていないことを明らかにした。そこには、ドイツにおける産業別賃金交渉のカバー範囲の縮小や日本型経営を特徴づけてきた「年功賃金」「終身雇用制」、さらには春闘制度の変化といった「変化」の側面が観察されると同時に、従来型制度の継続の側面も観察された。その混在状況こそが、まさに両国の特徴である。
 本研究では、何故スウェーデンにおける労使関係制度の再安定が比較的短期に生じ、日本とドイツがそうではないかを、更に進んで分析した。そこでは、スウェーデンにおける労働組合の交渉資源、戦略と日本、ドイツにおける労働組合、あるいは労働者の交渉資源、交渉戦略の違いを主たる分析の対象とした。
 我々は、いずれの事例においても、グローバル化の下で経営者側からの一方的な攻勢が行われ従来型の労使関係制度が変容したわけではなく、そこに労使間のcross-class allianceが生じていたことを明らかにした。しかし、他方で、その様なallianceは、従来の労使関係制度の国別の相違、すなわち、スウェーデンでは全国レベルに、ドイツでは産業レベルに、そして日本では企業レベルに軸足をおいたものであったという制度的特徴に媒介されて、異なる均衡へと向かっていったこと(スウェーデンの事例)、あるいは向かいつつあること(日本とドイツの事例)を示した。そして、均衡へ至るスピードの差は各制度における取引費用の大きさに依存している可能性があることを結論とした。