表題番号:2004B-212 日付:2006/11/13
研究課題水蒸気圧縮による高含水廃棄物の省エネルギー蒸発脱水技術研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 助教授 天野 嘉春
(連携研究者) 理工学総合研究センター 客員研究員 日野俊之
研究成果概要
バイオマスは本質的に高含水である場合が多い。たとえば汚水、下水汚泥、家畜糞尿などの高含水廃棄物では含有する有機物の割合が相対的に少なくエネルギー密度も小さい上、分離、貯蔵、運搬等の処理全体に高含水であるが故、ハンドリングコストが高くついてしまう欠点がある。その結果、これらのバイオマスは十分に再生、リサイクルされにくい。しかしながら社会全体からの排出量は膨大で、我が国では年間数億トンにも及ぶ。有機性高含水廃棄物は発生した場所、その地域で脱水処理することで、有用物質の分離、運搬、貯蔵における負荷を大幅に削減できる。しかし、濃縮、乾燥などの水分蒸発操作は、水の蒸発潜熱が約2.3[MJ/kg]と大きいことに起因して、典型的なエネルギー多消費プロセスとなっている。さらに、乾燥過程で化石燃料を燃焼させる方法を採用してしまうと、バイオマスを利用、再生するメリットが相殺されてしまう。
 そこで、本研究では蒸発脱水プロセスを省エネルギー化するための手法として、蒸発させた水蒸気を再圧縮し、昇温、昇圧下後、蒸気の潜熱を高含水廃棄物の蒸発へ再生利用する水蒸気再圧縮プロセスを用いて、溶液の濃縮、蒸発脱水における既成の省エネルギー技術の数倍の効率向上を目指す。具体的な想定開発対象として、数kW~数十kWクラスの分散型蒸発脱水装置への適用を意図して、高含水物質を蒸発脱水するプロセスにおいて化石燃料燃焼を代替し、CO2排出量を大幅に低下させるため技術開発の基礎研究として取り組んだ。いったん発生した蒸気を圧縮して加熱源として再生利用する手法は、化学工学プラントなどの大型装置で利用されている技術として知られている。この蒸気再圧縮プロセスをベースに基本的な実現可能性評価を行った後、基本的なサイクルの構成要素の特性と、それぞれの構成機器がサイクル特性へ与える影響度を評価した。
 まず、現在知られている脱水乾燥技術と性能を比較した。具体的には重油だきの熱伝導式乾燥機、高温燃焼ガスとの直接接触による乾燥機、マイクロウエーブによる電磁加熱蒸発器とを比較した。既存技術のうちもっとも一次エネルギー換算で高効率な重油だき熱伝導式乾燥機の約16倍の効率向上が見込めることを確認した。ここで、評価指標には、投入エネルギー(一次換算)に対する脱水に必要な交換熱量を成績係数COPとして定義し、用いた。
 また、実際に蒸発脱水処理量約100[kg/h]の実験装置を設置し、バッチ運転における基礎的な装置の特性データを収集、解析した。その結果、COP=10.5~7.0程度で動作することを確認した。また構成要素のエクセルギー評価を行った結果、コンプレッサーにおける圧縮仕事と熱交換器における熱交換プロセスに起因する不可逆損失がほぼ同程度で、もっとも大きなエクセルギー損失要素であることを確認し、具体的な要素開発課題を明らかにした。