表題番号:2004B-104 日付:2006/06/01
研究課題『源氏物語』の女性読者の受容-花屋玉栄の場合-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 助教授 ローリー・ゲイ
研究成果概要
前近代において、『源氏物語』注釈書にはすさまじい量があるが、女性によって書かれた物は少なく、女性読者のために書かれた物は玉栄の作品以外を見出せない。玉栄の女性読者に対する配慮と思われる特徴には、主にひらがなを利用することや、男性による注釈書と違って、典拠として仏典、漢籍をいっさい挙げていないことがある。

1.花屋玉栄(かおくぎょくえい、1536-1602以降)が書き残した二つの『源氏物語』注釈書の部分英訳を作成した。具体的には、玉栄の注釈書『花屋抄』(文禄3/1594年完)と梗概書『玉栄集』(慶長7/1602年完)の部分訳を米国コロンビア大学のハルオ・シラネ教授が編集中の『源氏物語』受容史英訳集(英語のタイトルはThe Genji Reader)に提出し、いづれコロンビア大学出版会に出版される予定である。

2.玉栄とは誰だったのかをできる限り明確にするために、いくつかの研究機関を訪れ、研究者と面会した。2004年5月20日に東京大学史料編さん所蔵の『近衛家文書』を調査し、吉田早苗教授に話をうかがった。さらに2005年3月6日~10日の間京都にある陽明文庫に調査へ出かけて行った。陽明文庫長の名和修氏にいくつかの近衛家文書を見せ、難解の箇所まで判読していただき、大変お世話になった。わたくしの仮説、「足利十三代将軍義輝の御台所近衛前久の姉」=「近衛前久の姉花屋玉栄」を検証するために最も貴重な資料は、慶長年間にできた系譜一枚で、玉栄の弟で、近衛家の当主近衛前久(1536-1612)あるいは前久の嫡男信尹(1565-1614)が作成した物と思われる。玉栄や前久の父親近衛稙家の子女が掲載されている系譜で、義輝御台が記載されているが、院号などの記載はなく花屋玉栄と同一人物であるかどうかは不明のままである。他に玉栄と考えられるような人物の記載もなく、同一人物ではないと決定することも難しい。成果とは言い難いが、近い将来これらを日本語の小論にまとめ、多く意見などを求めたい所存である。

3.2005年3月24~26日コロンビア大学で催される国際シンポジウム「The Tale of Genji in Japan and the World: Social Imaginary, Media, and Cultural Production」に出席し、淑徳大学教授宮川葉子氏と共同発表を行った。題は「江戸期の公家と武家の文化交流―綱吉の時代を中心に―」で、直接玉栄とは関係がないものの、次の研究課題『源氏物語』の女性読者の受容「正親町町子の場合」につなげていきたいと思う次第である。