表題番号:2004A-388 日付:2005/03/28
研究課題ナノコンポジット鋼の疲労き裂発生機構解明に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 増田千利
研究成果概要
これまで鉄鋼材料の疲労特性に関して組織の影響など数多くの研究が行われてきたが、最近ナノ組織を形成させる方法がいろいろ試みられ、その結果が報告されてきた。ここではその方法の一つである溝ロール法と粉末法によりナノ組織を有するフェライト鋼を作成し、固化成形を行い、疲労特性を調べた。比較材として、電解鉄を溶解した後、鍛造を加えた後、均質化処理後、溝ロール加工を施した材料も用いた。
 45μm以下のフェライト粉末を遊星ボールミルにより0、20,40,60hrと機械的混合を加えた後、キャニングして、700℃において、溝ロール加工を施した結果、組織的には粒内に100nm以下の酸化物と思われる粒子が多数点在していた。加工時間が長いほうが少し小さい傾向が見られたが、あまり大きな差は認められなかった。なお結晶径は機械的混合時間が長くなるに伴い小さくなり、60hr混合の場合、最小で約0.7ミクロン程度であった。比較材の場合の加工温度は粉末材と同じとしたが、結晶粒径は約3μmであった。粉末材とは異なり、酸化物はほとんど観察されなかった。
 このようなフェライト鋼の疲労特性は、40hr混合材の場合には、JIS S45C鋼焼入れ焼き戻しした調質鋼よりも高く、また20hr混合剤の場合には、JIS S35C調質鋼よりも高いことが明らかになった。破面観察の結果では疲労き裂発生した場所が、つぶれていて特定できなかったので、どのような発生メカニズムが働いていたかについては明らかにできなかったが、疲労強度の大幅な向上に、結晶粒の微細化、微細酸化物の分散が大きな寄与をしたと考えられる。溶解材の溝ロール加工を施したフェライト鋼の疲労強度は炭素量が高いJIS S25C鋼焼きならし材の疲労強度に比べて少し高いことが分かった。このように炭素量が低いにもかかわらず、その疲労強度が高炭素鋼の焼入れ焼き戻し材および焼きならし材の疲労強度に比べて高いことが分かり、炭素鋼の疲労強度は、炭素量とそのフェライト・パーライト組織あるいは調質組織より結晶粒径、微細分散酸化物の影響を大きく受けることが分かった。
 今後き裂発生のメカニズムを解明するために、破面を痛めないような荷重条件で試験を行い検討すること、さらに繰り返し荷重負荷中に結晶粒内に加工により導入された転位の変化(繰り返し荷重により転位の再配列による軟化、あるいはより多くの転位の導入による硬化が起こる)を調べる予定である。