表題番号:2004A-371 日付:2005/03/28
研究課題株主総会の活発化がコーポレート・ガバナンスに与える影響に関する実証研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 専任講師 大鹿 智基
研究成果概要
 本研究の目的は,公開会社における定時株主総会の活性化がどのような要因によって生じるのかの理論的・実証的分析を通じて,公開会社における株主総会の意義と機能を解明することにあった.本研究の研究代表者によるこれまでの研究では,少なくとも平均的には,定時株主総会が活性化(長時間化:経営者による丁寧な説明,株主の発言の増加)した公開会社について,利益率の上昇,情報公開量の増大,個人株主の増加といった経済的効果がもたらされていることが実証的に確認されている.ただ,そうした株主総会の活性化が,もっぱら経営者の意識変革によるものなのか,それとも株主からの働きかけの結果なのかは問題とならざるを得ない.本研究では,株主総会の活性化の要因を実証的に考察することを通じて,公開会社の定時総会の機能,とりわけ総会の場で株主の発言を通じたモニタリング機能が発揮され得るのかという問題を解明しようと試みた.
 本論文ではまず,業績予想の精度について,全企業を対象とした分析をおこなった.その結果,先行研究で指摘されたような調整行動は存在するものの,その程度が徐々に小さくなりつつあると考えられる現象が観察された.それを踏まえて,株主総会の正常化を果たした企業の公表する業績予想の精度と,それ以外の企業が公表する業績予想の精度とを比較し,前者がより高い精度である,とする仮説1を検証した.しかし,その結果は,株主総会が正常化した企業が,精度の低い業績予想を公表している,というものであった.この結果は当該企業が従来より精度の低い業績予想を公表していたことに起因する可能性がある.一方,株主総会正常化の前後を比較して,業績予想の精度が向上している,とする仮説2の検証では,一部に統計的有意性が見られなかったものの,仮説をほぼ支持する結果となった.
 これらの結果から,情報公開の立ち遅れていた企業に対し,株主総会において投資家からの規律付けがなされ,それに経営者が反応したのではないかと推測される.その意味において,株主総会の正常化や業績予想の精度向上という改善は,投資家による規律付けと,それに呼応した経営者の意識変化の産物であるということもできよう.今後,株主総会の正常化の契機となりうる事由ごとにサンプルを分類した分析することや,業績予想の精度向上が継続するか否かを分析することなどを通じ,株主総会正常化の経済的帰結を明らかにし,株主総会の意義に関する検証をおこなうことが残された課題である.