表題番号:2004A-288 日付:2005/03/23
研究課題スポーツ医科学領域における活性酸素・サイトカイン研究の進展と統合
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 専任講師 鈴木 克彦
(連携研究者) 人間科学学術院 外国人研究員 PEAKE, Jonathan
研究成果概要
 サイトカインは、免疫系や炎症の制御分子として注目されている生理活性物質である。著者らは、マラソンのような激しい持久性運動によってサイトカインの血中濃度が変動することを明らかにしてきた。しかし、従来、運動負荷に伴う血中サイトカイン濃度の変動は、運動の強度に依存するものか、あるいは運動による骨格筋の損傷に伴うものであるのか明らかではなかった。そこで本研究では、最大酸素摂取量の60%強度と85%強度でそれぞれ60分間の水平トレッドミル走、最大酸素摂取量の60%強度で-10%の傾斜のあるダウンヒルのトレッドミル走(筋損傷が顕在化しやすい典型的運動負荷)の3条件を設定し、同一の被験者9名に3種類の運動を負荷して、運動条件間の比較検討を行った。運動強度の指標としては、コルチゾール、カテコールアミンなどのストレスホルモンの血中濃度を測定し、筋損傷の指標としては血中ミオグロビン濃度、クレアチンキナーゼ活性を測定したが、3条件はそれぞれの指標に特徴的に顕著な影響を及ぼし、実験条件の設定は良好であった。本研究では、9種類のサイトカインの測定を行ったが、IL-6、IL-1ra、IL-10、IL-12p40、MCP-1、HSP70は運動強度依存的に有意な上昇を示し、これに比し、筋損傷とは関連は認められなかった。これらのサイトカインは、細胞性免疫を抑制する作用があり、炎症の全身性波及を抑制する適応機構として働く反面、感染に対する抵抗能力を低下させる可能性が考えられる。またこれらのサイトカインの変動は、コルチゾール、カテコールアミンなどのストレスホルモンとの間に強い相関が認められ、神経内分泌因子と免疫系の連動が密接であることを証明できた。さらにこのような全身的なストレス要因を排除して筋損傷の影響を検討するために、局所的な肘進展モデルを用いた遅発性筋炎に伴う血中サイトカイン濃度の変動も検討したが、筋損傷マーカーの劇的な変動にも関わらずサイトカインの変動は軽微であり、血中サイトカイン濃度の変動は運動強度(ストレス)依存性であることが確認できた。これらの成果は、米国生理学会にて報告し、また5月のアジアスポーツ医学会で報告する予定であり、既に掲載された論文と現在米国スポーツ医学会誌に投稿中の論文が成果として出つつある。