表題番号:2004A-276 日付:2005/03/24
研究課題五感を通じて気づく身体感覚及び感性・情動に関する身体心理学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 鈴木 晶夫
研究成果概要
近年、若年層を中心に自己存在感の希薄化が指摘され、心理的自己肯定感だけでなく身体感覚が必要とされ、その身体感覚は基本的信頼感の形成にも関連すると推測される。若い世代では「からだ言葉」表現を使って自分の精神や身体の状態を表現しなくなり、「からだ言葉」を利用して日本文化独特の身体感覚や精神を伝達しようとしても、通じなくなっている。インターネットや携帯などのバーチャルな環境におかれ、日常の「遊び」の中でも身体接触や身体を利用した情報交流がなくなり、「からだ言葉」だけでなく、身体を使っての独特の精神的文化交流ができなくなっている。本研究では、身体感覚に関連する諸要因の検討を目的とした。
方法として、男女大学生を対象に、1)食習慣、2)摂食態度、3)自尊感情尺度、4) PBI、5)身体感覚イメージ尺度、6) TCI を用い、身体感覚と諸要因との関連を検討した。本研究では、身体感覚イメージ、自尊感情、TCIを中心に分析した。身体感覚イメージ20項目を因子分析した結果、(1)空腹・満腹に関連する「腹因子」、(2)匂いや痛みに関する「鼻(嗅覚)・(痛覚)因子」、(3)第三者の姿勢・体形・歩法などの身体イメージに関する「第三者身体イメージ因子」、(4)毛皮の感触などの「皮膚感覚因子」、(5)食物の食べた感じに関する「口感触因子」に分類された。
 自尊感情尺度、PBI、TCIとの相関をみると、「第三者身体イメージ因子」とSE、TCI(NS:新奇性追求、RD:報酬依存、SD:自己志向、C:協調)に有意な相関が得られた。自尊感情は、基本的信頼感とも関連が高いことが知られており、人間が生きていく上での基本的な要素である自尊感情と親しい友人の身体イメージの鮮やかさとの関連は興味深い。TCIの気質に関する下位項目である新奇性追求(NS)は、行動の触発のシステムであり、新しい行動を求めたり、意思決定の早さと関連が深く、ドーパミンが仮定されている。行動の抑制と関連が深い。行動の維持や温かな社交的友好関係との関連が深い報酬依存(RD)とは、1%水準の相関がみられ、自分以外の身体イメージが鮮やかに思い浮かぶこととの関連は興味深い。また、「第三者身体イメージ因子」は、環境的な影響を受ける「自己志向:SD」「協調:C」とも有意な相関がみられ、性格因子との関連も興味深い。身体感覚を健康心理学・身体心理学的に考えると、子どものときからの様々な生活習慣、生活の変化、便利さなどが関わり、短絡的な行動、忍耐力のなさ、緻巧性の欠如等、様々な意識や行動パターンの変化に影響しているとみられる。これらは、日常の生活習慣、健康意識、食行動、社会的なスキルなど様々な問題とも関連すると考えられる。