表題番号:2004A-256 日付:2005/03/25
研究課題企業組織内における集団規範および集団凝集性の役割
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 教授 井上 正
研究成果概要
本研究では、チーム生産に伴うフリーライダー問題を解決する方法として、グループ内における「規範」というような社会的に共通の信念ないし慣行が、フリーライダー問題を解決するためには有用であるということを理論的なモデルに基づき議論した。Marsden[1986]は、様々な労働市場でみられる社会規範および社会慣習の重要性を強調している。また、Jones[1984]は規範順応的行動の経済モデルを展開しており、そこでは、個人の職務努力は部分的には伝統および他の従業員の行動によって決定されるとしている。これらの研究の中心課題は、個人行動は、ある程度、他の個人の行動によって影響されるとしている点である。こうした主張はチーム生産におけるフリーライダー問題を回避できる可能性を提示するものであり、個人間の掛かわり合いこそがフリーライダー問題の解を提示するとするSen[1977]の議論と一致するものである。よりフォーマルな形での社会的規範あるいは慣習のモデルはAkerlof[1980]によって提唱されている。Akerlofは「個人が社会慣習に不服従であることが評判を落とすのであれば、個人にとって不利となる社会慣習でも、それは風化することなしに残る」と主張している。Booth[1985]は同様なモデルを展開しており、そのモデルでは、従業員は組合に参加することから生じる評判から効用を獲得するとされている。この効用は組合のメンバーシップであることの費用と相殺されるので、フリーライダー問題は回避される。そして、このモデルは強制力に頼ることなく労働組合のメンバーシップの存在を説明することを可能にするとしている。このように、社会的規範あるいは慣習の存在は、一人以上の個人が協力的に行動し、囚人のジレンマを回避できる可能性をもたらす。各個人は、各人の利害によってのみ動機付けられるとしても、社会的関心を持つ個人はフリーライダーとなることに抵抗する可能性があるので、社会的規範あるいは慣習といったモラルによってフリーライダー問題の解決を実現することは可能であると結論づけることができる。