表題番号:2004A-254 日付:2006/03/24
研究課題環境経済モデルによる人口問題の理論的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 教授 赤尾 健一
研究成果概要
地球環境問題を考える上で重要な要素として世代間衡平と人口問題がある。本研究は、世代間衡平の観点から望ましい資源配分や人口経路とはいかなるものかを考察した。本研究では、各世代が隣り合うかあるいは重なり合う世代が資本(世代を超えて存在するもの)の扱いに関して対等な権利を有するという仮想的な状況を想定し、そこで行われる交渉の結果(ナッシュ交渉解)の列でサブゲーム完全なものを世代間衡平経路と定義する。特定のモデルに関してではあるが、そのような交渉解の列が、割引のあるラムゼーモデルの解によってミミックできること、人口が交渉の対象となるときの解は、Barro and Becker (1989)の産子数選択の動学モデルの最適解を思わせるものになること、そして世代重複モデルでは世代間衡平経路は生成的に非効率であることなどを明らかにした。
本研究の世代間衡平の定義は手続き上の衡平性に基づくものといえる。これに対して、従来、経済学では評価上の衡平性(割引なしのラムゼーモデル)か、結果上の衡平性(平等主義モデル、ロールズ流のミニマックス経路)が考察されてきた。平等主義は、経済が成長可能であるとき(つまりラムゼーモデルの最適経路が右上がりであるとき)、われわれの世代間衡平観に反する経路を示唆する。一方で、ラムゼーモデルは、経済動学の始祖であるRamsey(1928)自身、割引が倫理的に正当化できないと主張すると同時に、ゼロ割引率が容認できないような高い最適貯蓄率を示唆することを指摘している。本研究は、このような状況に対して、手続き上の衡平性を考えることで現実に容認可能な世代間衡平経路を提案している。平等主義経路もラムゼー経路もサブゲーム完全ではあるが、将来世代は現在世代の決定に対して何ら異議申し立てができない。このような経路は、手続き上の衡平性を欠いている。