表題番号:2004A-180 日付:2005/04/11
研究課題高温高圧下で分離機能を発揮するゼオライト膜とそれを用いた膜反応器の開発研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 松方 正彦
研究成果概要
1.緒言
 ゼオライト膜の研究開発はこれまで,多くのtry and errorによる実験の積み重ねによって合成条件を最適化し,透過分離特性の最適化を図ることが行われてきた。BNRIにおいてはA型ゼオライト膜の脱水膜としての工業化が急がれているが,ゼオライトには多くの種類の骨格構造が存在し,また化学組成(主にはシリカアルミナ比)も変化に富むことから,ゼオライトの膜材料としてのポテンシャルについては,いまだに研究開発の端緒についたばかりといえよう。
ゼオライト膜の透過分離性能を支配するのは,膜厚,結晶の配向,緻密さ,粒界の大きさといった膜構造,および分子ふるい作用,吸着特性といったゼオライト固有の物理化学的特性である。しかしいっぽうで,これら構造,物理化学的特性と分離透過特性の関係,両者の制御方法についてはほとんど明らかになっていないと言ってよい。
したがって,本研究の大きな目的は,合成条件と生成する構造の相関,膜構造と透過分離性能の相関を明らかにし,透過分離性能の合理的な制御方法を明らかにすることにある。本年度は,ZSM-5,モルデナイトを用いた薄膜に関して,高温高圧下における新規な透過分離性能を見出したので報告する.

2.実験
母体の種結晶を粉砕して得たスラリーを用いて種結晶を多孔質アルミナ支持体上に担持し,これを水熱合成法により成長させることにより緻密で透過分離性能の高い膜を合成する手法を確立した。水、メタノール,水素の3成分系混合ガスから,水素を供給(高圧)側に残し,水および/あるいはメタノールを選択的に透過せしめることを目的に透過実験を行った.本年度は,モルデナイト膜については全圧30気圧までの高圧下における透過分離性能を評価した.いっぽう,ZSM-5膜に関しては全圧は1気圧に固定して透過実験を行った.

3.結果・考察
3.1. 合成実験結果
 多孔質アルミナ上にZSM-5あるいはモルデナイトの種結晶を塗布し,合成溶液組成および結晶化条件をそろえて結晶化を行ったところ,ZSM-5種結晶を塗布した支持体上にはZSM-5膜が,モルデナイト種結晶を塗布した支持体上にはモルデナイト膜が生成することを見出した.すなわち,種結晶の種類によって異なる構造のゼオライトを製膜することが可能となった.
3.2. モルデナイト膜の透過分離性能
 30気圧、250℃までの範囲で透過実験を行った。水素の透過量は膜のシール部分からのリーク程度であり,水選択性を発現したことがわかった。モルデナイト膜は高温高圧系において高い水選択性を発揮する膜であると結論できる。選択性は条件にもよるが,水素に対する水の選択性は10000を超えた.水素/メタノール混合ガス,水/メタノール混合ガスの透過試験結果より,水以外の水素,メタノールは膜をほとんど透過しないものと考えられた。
 水蒸気濃度20%,常圧,150-250℃において,Na型モルデナイト結晶粉末を用いて,水,メタノールの吸着実験を行った。その結果,水の吸着はモルデナイトの高温安定性に寄与することがわかった。いっぽう,メタノールは吸着するものの透過が起きないことが明らかとなった.このことは,水選択性がミクロ細孔内への吸着性の違いにより発現したことを否定しており,今のところ,モルデナイト結晶の積層欠陥によって細孔が著しく狭まり,結果としてメタノールが透過できなかったものと推察している.
3.3. ZSM-5膜の透過分離性能
 モルデナイト膜を用いた場合の結果とは異なり,メタノール/水素混合系では,両者とも透過し,ほとんど分離しなかった.これに対し,水/水素系では水が選択的に透過し水素の透過が阻止された.また,水/メタノール/水素3成分系では,水とメタノールが膜を透過し,水素の透過が著しく阻止された.こうした,水の共存による選択性の発現は,水の細孔内への強い吸着によるpore-fillingが原因と考えられるが,詳細は今後検討する予定である.