表題番号:2004A-156 日付:2005/03/26
研究課題単糖の水和構造と生物学的役割の関連性についての第一原理分子動力学を用いた研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 宗田 孝之
研究成果概要
水が生体分子の物理・化学的性質にもたらす影響を検証することは、生命の諸現の本質を理解する上で重要な課題である。現時点ではタンパク質やDNA等の水溶液中の第一原理分子動力学シミュレーションは困難だが、分子量が比較的小さくかつ生物学的に重要な単糖ならば、近年の計算機技術の発展により、水和の第一原理分子動力学シミュレーションが可能となった。そこで本研究は、第一原理分子動力学を用い、グルコースやリボースの物理・化学的性質に、水和が与える影響を詳細に検証することを目的とする。この研究は、将来において予想されるRNA等の大規模な第一原理分子動力学シミュレーションを行う上で、必要不可欠な知見を与えるものと期待される。
まず、リボフラノースのヒドロキシメチル基の回転異性体に対して、それぞれ水和構造を調べ、水和構造は回転異性体に比較的強く影響を受けることを確認した。さらに、第一水和層の水分子に属するワニエ関数中心と原子核の座標を用いて水分子が持つ双極子モーメントの分布を求めた。その結果、数ピコ秒間リボフラノースにアクセプターとして水素結合している水分子の双極子モーメントは約0.3デバイ増加することを確認した。この結果は、単糖と第一水和層との間の比較的強い局所的分極相互作用を示している。[1]
次に、水和構造と生物学的に重要であるリボフラノース五員環のパッカリングの関係を調べるため、その構造的な揺らぎおよび低周波数領域のダイナミクスを、近年注目され始めた時間-周波数解析法の一つであるヒルベルト・ファン変換を用いて解析した。その結果、ヒドロキシメチル基回転異性体によって、低周波数領域のダイナミクスが異なっていることを確認した。また、パッカリング位相角が、アノメリック酸素とヒドロキシメチル基の酸素との距離と動的な相関を持ち、その相関性を用いて水和構造がパッカリングのダイナミクスに及ぼすメカニズムを説明することに成功した。この結果は、パッカリングの二つの状態間(S領域とN領域)の遷移、ならびにRNAの水溶液中におけるダイナミクスの理解に重要な意義を持っている。[2]