表題番号:2004A-141 日付:2008/02/22
研究課題アミノ酸ラセマーゼの機能改変とD-アミノ酸誘導体生産法の確立
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 木野 邦器
研究成果概要
【アミノ酸ラセマーゼの機能改変と解析】
公開されているゲノム情報を利用して低基質特異性のPseudomonas putida IFO12996由来のアミノ酸ラセマーゼ遺伝子をクローニングし、error-prone PCRによる遺伝子のランダム変異導入を実施した。L-トリプトファン要求性の大腸菌を用いて変異クローンライブラリーを構築し、D-トリプトファンで要求性が相補される変異クローンを取得して活性を評価した。その結果、期待通り活性の増大した変異クローンを取得できた。本クローンは芳香族アミノ酸であるフェニルアラニンに対する活性も増大しており、他のポジティブクローンと併せ詳細検討中。また、変異部位も特定しており、ネイティブ酵素遺伝子に対して部位特異的変異導入によって、取得変異クローンの活性変化の検証を進めている。
【D-アミノ酸リガーゼの解析とD-アミノ酸ジペプチド合成法の開発】
E. coli K 12由来のD-アラニン-D-アラニンリガーゼ(Ddl)をゲノム情報をもとにクローニングし、His-Tag融合酵素として大腸菌で発現させた。D-Alaに加え,D-Ser,D-Thr,D-Cys,Glyを基質とした場合にも活性に差はあるものの、それぞれ対応するD-アミノ酸からD-アミノ酸ホモジペプチドが生成していることを確認した。
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の変異型DdlがC末端側にD-AlaではなくD-Serを連結することは既に報告されているが、VRE以外の微生物のDdlがD-Ala 以外のアミノ酸も基質にすることに加え、C末端側だけではなくN末端側にもD-Ser,D-Thr,D-Cys,Glyが挿入される基質特異性のあることを明らかにしたのは本研究が初めてとなる。
D-アラニル-D-アラニン,D-セリル-D-セリン,D-スレオニル-D-スレオニン,D-システイニル-D-システイン,グリシル-グリシンは収率にして71,71,2,60,77%での合成に成功し、Ddlを利用したD-アミノ酸ジペプチド合成プロセスの有効性を示した。
【アミノ酸ラセマーゼ/D-アミノ酸リガーゼ共役系によるL-アミノ酸からD-アミノ酸ジペプチド合成法の開発】
 E. coli K 12由来のDdlは立体特異性が厳密なため、D-アミノ酸だけでなくラセミ体混合基質からも目的のD-アミノ酸ジペプチドを生成する。この時、アミノ酸ラセマーゼを作用させることでラセミ体中のL-アミノ酸も基質として利用できるようになり、さらには安価に供給できるL-アミノ酸のみからのD-アミノ酸ジペプチド合成も可能となる。
 上述の低基質特異性のPseudomonas putida IFO12996由来のアミノ酸ラセマーゼとDdlを共役させてL-アミノ酸からのD-アミノ酸ジペプチド合成を検討した。L-Ala、L-Ser、L-Cysから反応7時間で対応するD-アミノ酸ジペプチドをそれぞれ収率44%、36%、9%で合成することができた。D-アミノ酸を原料とする場合に比べ収率は低いものの、L-アミノ酸ジペプチドの副生は予想通り認められず、本プロセスではL-アミノ酸のラセミ化とD-アミノ酸ジペプチドの合成を一段階の反応で行うことができる。