表題番号:2004A-135 日付:2005/04/11
研究課題フレキシブル生産システムにおける生産環境変化への対応方式の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 大成 尚
研究成果概要
顧客ニーズの多様化や企業間競争の激化に伴い、製品ライフサイクルの短命化、高頻度の新製品・新設備投入が起きている。さらに、生産拠点のグローバル化が進み、部品加工と製品組立を最適ロケーションで行うようになり、その最適ロケーションはマーケットの変化に伴って変化する。この生産要求の変化と、生産環境の激変に対して、迅速に対応できるフレキシブル生産システムの開発が急がれている。
 フレキシブル生産を実現するための課題は、部品加工と製品組立では大きく異なる。部品加工におけるフレキシブル生産システムの実現方式のコンセプトとして、リアルタイム処理ベースの自律分散型生産システムが提案されている。これまでの研究で、自律分散型生産制御システムの実現化のために、生産進行に必要な制御機構と処理フローの設計を行ったので、本研究では、自律した生産対象物と設備が持つ、生産進行のための意思決定インテリジェンスの開発を行った。
 また、製品組立においてフレキシブル生産を行うためには、製品品種が変化した場合で、作業者が作業に慣れるまでに時間がかかり,計画の要求生産量を満たせるまでの、ラインの立ち上げ期間が短くすることが大きな課題となっている。そこで、本研究では特に作業者の作業能力を考慮した作業計画方式を開発した。

(1)自律分散型生産進行のための制御インテリジェンスの研究

 自律分散型生産制御システムとは、生産対象物であるジョブと、設備が意思決定と通信の機能を持つことで自律し、自律したジョブと設備間で、各ジョブが完成までに必要な要素作業について、作業実施のための契約を結ぶことを繰り返して生産進行を進める仕組みである。作業実施の契約を結ぶため、ジョブは作業実施依頼として募集を行い、作業実行可能な設備が応募する。設備のよる応募では、作業完了までの予定時刻を示す必要があるため、各設備が保有すべき作業時間計算機能を実現化するためのインテリジェンスを設計する。
 従来の作業計画方法では、切削作業とワークの着脱である加工面変更作業だけを考慮し、作業時間の多くを占める工具交換の段取作業について考慮されていない。その結果、予定と実際の段取作業に多くの誤差があり、リードタイムの増加や、生産率の低下を引き起こしている。そこで本研究では、リアルタイムに段取り状況を把握できる自律分散型生産制御システムにおいて、工具段取作業を考慮した作業計画アルゴリズムの開発を行った。工具段取り作業を考慮するために、工具の構造モデルを設計し、工具交換時間の計算を可能とした。さらに、最適な作業計画を導くために、作業計画の解が工具選択のよさと加工面選択の良さという2軸で表現可能であることから、2つの解(親)から改良解(子)を導く、遺伝アルゴリズムを採用した。その結果、短時間に良い解を導くことが可能であることを確認した。
 今後の課題は、本研究では、考慮できなかった冶具について、最適な冶具選択の機能も含めた作業計画アルゴリズムに発展させることである。

(2)フレキシブル組立ショップにおけるライン作業計画方式の研究

 本研究は、多品種小ロット生産を行う縫製ラインを対象とし、従来のライン編成法では下記2つの問題点があることを確認した上で、全製品の作業割付問題と製品群の生産実行順序付け問題を同時に考慮する一括型多品種ライン編成法を開発し、生産総所要時間の短縮に効果があることを確認した。
確認した従来工程編成法の問題点
 ①個々の製品の作業を工程に割り付けてから、作業者を工程に割り付けるという工程編成手順では、作業者の作業能力差を考慮した  負荷バランスの取れた作業配分ができない
 ②製品の工程編成を行ってから、製品群の生産順序付けを行う方法では、製品切り替え時に作業者の担当工程への移動を含めた段取  り時間を考慮した多品種工程編成はできない
 そこで、本研究は、作業を直接作業者に割り付ける工程編成手順を提案し、さらに、個々の製品の作業を作業者に割り付けることと、製品群の生産実行順序付けを同時に考慮した工程編成法を提案した。一括手法を取るため対象問題が大規模となり、そこで本研究は遺伝的アルゴリズムを用いて、少ない探索回数で従来よりも良い解を見つけることに成功した。
 また、付随的な研究成果として、デザイン性や季節性のため膨大な作業種類がある縫製現場では、作業者が常に未習熟の作業を担当せざるを得ない状況にあり、作業経験によって、同じ作業種類に対しても作業者間に作業時間の差が大きいことを現場の調査・分析より分かった。さらに、未習熟の作業に対して作業者の作業時間は生産ロット毎に変化していることを確認している。今後は作業者の作業時間変化を考慮した工程編成法を開発する必要があることを確認している。