表題番号:2004A-134 日付:2005/03/25
研究課題自己組織化単分子膜を利用した機能性めっき薄膜の形成とULSI配線技術への応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 逢坂 哲彌
(連携研究者) 理工学総合研究センター 客員教授(専任扱い) 松田 五明
(連携研究者) 日本学術振興会 特別研究員 中西 卓也
研究成果概要
 本研究では自己組織化単分子膜(Self Assembled Monolayer: SAM)を触媒付与/密着層として用い、緻密で密着性の良い無電解めっきを行うため、以下のプロセスを開発し、ULSIやフレキシブル配線基板へ高機能性めっきを可能とする基礎技術の確立を目指した。
1)下地基板の前処理:密着性の良いSAM形成に適した表面に改質する。
2)SAMの形成:Aminopropyltriethoxy silaneのトルエン溶液に浸漬する。
3)SAMの活性化:PdCl2水溶液に浸漬後、還元処理を行いPd触媒の固定化を行う。
4)無電解めっき:NiBまたはCu無電解めっきを施す;シード層、バリア層
5)電解めっき:無電解めっきを導電体として、その上に電気めっきを施す。
本研究では以下の3分野でSAMの有効性を確認した。
1 SiO2/Si(ULSI)への適用
 現在ULSI製造においては、dry processでバリア層さらにシード層を形成させた後、電気Cuめっきによりトレンチ(溝)やビア(穴)を完全に埋め込み(super filling)Cu配線を形成している。本研究は、dry processを用いず、wet processのみでULSI内に完全なCu配線を形成することを試みた。
トレンチを形成したSiO2 /Si基板上にSAMを形成し、活性化の後、NiB無電解めっきを行ったところ、平滑で密着性の良いNiB膜が形成した。これがシード層として働き、NiB上に直接Cu電解めっきが可能となった。NiBは従来のdry processと比べて、すべての場所で膜厚みが均一であり、微細なトレンチ(溝)の中に、Cuのsuper fillingが容易になることが確認された。さらに、NiB層はCu配線の問題点であるCuの拡散を防止する働きが顕著でありバリア層としても優れた特性を持つ。本wet process はULSI配線をすべてwet processで行う世界初の試みであり、次世代のULSI製造技術として、高い可能性を持つことが確認された。
2 低誘電率層間絶縁体(ULSI)への適用
 高周波対応のULSIにおいては、配線遅延の問題を解決するために、絶縁体の誘電率を低下させる必要がある。誘電率が3.0以下であるlow-k材料(東京応化製:HSQ、MSQ)に対して、本プロセスの適用を研究した。これらの材料においては、UV照射による表面改質を行うことで、密着性の良いSAMが形成された。活性化後、NiBを無電解めっきしたところ、NiBは緻密で平滑であり、Cuの拡散を防止する働きが顕著であることが確認された。本プロセスはlow-k材料にも適用可能で、次世代ULSI製造技術への貢献は大であると期待される。
3 平滑ポリイミドフィルム(フレキシブル配線板)への適用
 フレキシブル配線板分野でも高密度化・高速化が図られており、配線の微細化・配線遅延の防止が技術課題となっている。配線遅延防止のために、Cu配線表面の平滑性が重要であり、平滑な樹脂表面との密着性を確保するためにSAMを適用した。ポリイミド樹脂表面にシラノール基と反応するOH基を露出させるため、プラズマ処理を行った。プラズマ処理の後、本プロセスにより無電解Cuめっきを行うと、緻密で密着性の良いめっき皮膜を得ることができた。本プロセスは樹脂表面にも適用可能であり、高速化対応のフレキシブル配線板にも有効であることが明らかとなった。 
以上、SAMを形成し活性化することにより、密着性に優れ、緻密で平滑な無電解めっき膜が得られることで、各分野で優れた特性を持つめっきプロセスが可能となった。特に、Pd触媒の状態が均一で緻密なめっきに重要な役割を果たしていると考え、基礎的な解析を行っている。詳細については今後の課題である。