表題番号:2004A-081 日付:2005/03/23
研究課題生物種を超える造血制御の環境応答
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 加藤 尚志
研究成果概要
血球産生は動物の生存に重要な役割を担う。本研究では個体の置かれる環境ストレスに対する造血系の応答に着目した。例えば、低酸素体外培養後のヒト骨髄幹細胞の移植後再構築能の向上(Danet, et al. J .Clin Invest, 2003)、造血微小環境の変化による移植造血幹細胞の体内生着率変動など、生体内外の造血環境は、血球産生に大きく作用する。また、脊椎動物、特に両生類では、季節・性周期や棲息環境・発生段階の変化によって、主要造血器は、骨髄、腎臓、脾臓、肝臓などの臓器間で移動する。その仕組みを外温生物である無尾両生類アフリカツメガエル(ゼノパス:Xenopus laevis)をモデルにして、包括的理解を進めるために必要とする基礎的手法の開発、ならびに実際に個体への温度環境負荷に依存する末梢血球数の変動について調べた。環境ストレスとして、まず低温環境を選択し、飼育温度の変化に応答するin vivo造血変動を調べた。

<造血制御の温度依存性>
ゼノパスを25℃(常温)で飼育後、10℃の低温下へ飼育環境を移行して経時採血を行ったところ、各種末梢血球数は徐々に減少し始め、特に赤血球は約3週間で常温時の40%ほどに減少し、その後一定数に保たれた。再び常温飼育下に移行することで、これら血球数は、ほぼ元の値まで可逆的に回復した。血球数回復時の末梢血球のMGG(メイ・グリュンワルド-ギムザ)染色像を観察すると、常温飼育では末梢血中にはほとんど観察できない幼若な赤血球が多く出現しことから、低温応答によって血球産生が亢進していることが示された。
<ゼノパス造血における脾臓の機能解析>
脾摘ゼノパスを作出し、脾摘後の末梢血球数変動を観察した。脾摘直後、一旦減少した栓球数は術後20日目までに大幅に増加し、約一ヵ月後に正常値に回復した。また、脾内細胞をMGG染色にて観察すると、栓球様の細胞が多数見られる。これらの結果から、脾臓は環境変動負荷における末梢血中の栓球数調節に密接な役割を担っていることが示された。

今後は、以上の結果を踏まえて、環境ストレスに暴露された血球系細胞の増殖・分化・機能や細胞局在を観察し、細胞質と核内で発現が変動する分子を発掘していく予定である。注目すべき分子を蛋白質化学・分子生物学的な手法によって探査選別、同定を進め、次いで当該遺伝子の機能発現動物モデルにおいて、造血器の組織形態の変化、末梢血球数の変動を調べ、これらの分子機能の検証へ進めていきたい。