表題番号:2004A-066 日付:2014/03/16
研究課題20世紀のドイツ文学における「故郷」の変容について
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 助教授 山本 浩司
研究成果概要
 本研究は、とりわけ「小さな文学」(ドゥルーズ/ガタリ)という発想にヒントを得て、東欧圏のドイツ語文学の諸相を見ることを出発点とした。この研究領域では先駆的な平野嘉彦の仕事(『獣たちの地図』『マゾッホという思想』)を参照しながら、ポスト冷戦時代の新しい文学にも目を向け、とりわけルーマニア出身のドイツ語作家ヘルタ・ミュラーの作品分析を中心的に行った。近年の彼女は、コラージュの技法を大きく取り入れ、ダダなどにつながるアヴァンギャルド的な言語批判、言語と写真の相互作用に関心を寄せ出していて、「大文字の文学」への批判的視点を強めている。2004年度中の研究成果は、論文「想起とアヴァンギャルド――ヘルタ・ミュラーのコラージュ作品について」(「研究成果発表」の項参照のこと)にまとめることができた。
 2005年度には「早稲田大学特別研究期間制度」を利用して、オーストリア/ザルツブルク大学で特別研究員と過ごし、「ラウリス文学週間」ではヘルタ・ミュラーと知己も得、情報交換を行った。この研究期間中には、ハントケ、ベルンハルト、イィリネクらの研究者たちとの知的交流によって、オーストリア戦後文学における「故郷」批判の言説における周縁性の重要性に注意を喚起されるとともに、ウィーンという文化的中心のなかであくまでもアウトサイダー性(女性、ユダヤ人)を体現しているイルゼ・アイヒンガーの徹底した脱=「故郷」的知性にも関心が向かった。これらは一方論文「ウィーン、消失の地誌――アイヒンガーのエッセイ集『定かならぬ旅』について」に、他方で口頭発表「「海」と「砂漠」――アイヒンガーとバッハマンにおける非=場所」にまとめられた。