表題番号:2004A-052 日付:2005/03/25
研究課題注視反応の条件づけに関する実験的分析-古典的条件づけと道具的条件づけの比較検討-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 木村 裕
研究成果概要

(1)目的
「見る」反応を指標とし、ヒトの古典的条件づけ過程と道具的条件づけ過程について、
この度は、まず次の3点に関する実験的分析を行うことを目的とした。
1)注視映像の導入によるCSへの反応水準に与える影響の確認。
2)注視映像導入による馴化への影響の確認。
3)注視映像の導入とCSの呈示時間の差異が自動反応形成に及ぼす影響の確認。
(2)方法
 1)被験者と実験状況:被験者は、この種の実験にナイーブな男女大学生40名(平均
年齢24.1才)であった。実験室の床面積は約14㎡で実験中は外光を黒いカーテンで遮断
して常時20Wの白色光を点灯してあった。
 2)実験装置・材料:被験者の目から刺激呈示距離が80cmになるように顎台と刺激呈
示板を設置し、被験者が顎を乗せた着席の状態で、刺激呈示位置と目の高さが同じにな
るように顎台を調節し、中央に注視映像の呈示位置を定めた。注視映像呈示口から左15cm
の位置にCS呈示口、右15cmの位置にUS呈示口を設けた。CSとして赤色発光ダイオードの
点灯(5秒か10秒)、USとしてスポーツの記録動画映像(サッカー、テニス、K-1)呈示(15秒
固定)、実験中常時用いられる注視映像として、アニメ音楽映画ファンタジア(Disney社)
を用いた。被験者の注視点はアイカメラ(NAC社、EMR-7)とビデオデッキにより検出記録
された。
 3)群構成(条件設定):実験は2つのステージから成っているが、次の4被験者群(各群
10名)が設けられた。①CS5視有群では5秒のCSが、②CS10視有群では10秒のCSが、注視映
像と共に用いられ、また、③CS5視無群では5秒のCSだけが、④CS10視無群では10秒のCS
だけが、注視映像を併用することなくそれぞれ単独で用いられた。
 4)手続き:①第1ステージでは、各群がUSを用いることなくCS呈示を平均45秒ITI間
隔で10回繰り返すことを4セッション行った。セッション毎にアイマークカメラを外して
5分の休息を取った。
②第2ステージは、第1の終了10分後から開始された。各群は、各CSと注視映像の呈示条
件の下にUSと対呈示される5セッションを与えられた。
(3)結果・考察
 1)注視映像導入の効果について:本実験結果は効果があったと示唆している。CSに対
する注視反応率に関しては凝視無群(CS5視無群+CS10視無群)が60~90%であったのに対し、
凝視有群(CS5視有群+CS10視有群)は10~50%の反応率を示していた。
 2)馴化に関して:本実験結果では、凝視有群は70%、凝視無群は10%の被験者が馴化成
立を満たしており、凝視映像の導入は馴化成立を促進したといえる。
 3)古典的条件づけ(自動反応形成)の成立について:本実験では、CS-US対呈示後の反応
率が馴化成立後のCS単独呈示に対する反応率を有意に上回ってる場合に自動反応形成が生じ
たとした。多重比較の結果、CS10視有群の第1セッションと第4セッションの間に有意差が確
認され(F(1,18)=6.675, p<.05)、自動反応形成の過程が確認できたといえる。
(4)今後の課題
 1)オペラント条件づけの過程の追跡が十分ではないので、研究を継続する必要が有る。
また、実験実施上の方法論についても、なお検討を深める必要が有る。