表題番号:2004A-039 日付:2005/03/25
研究課題現代演劇と先住民:先住民の現代的表現をとりまく日豪のイデオロギーと文化状況の比較
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 助教授 澤田 敬司
研究成果概要
 オーストラリアで70年代初頭から勃興した先住民演劇は、今日、特に日本に於いて、来日公演、翻訳上演などインターカルチュラルな展開を見せている。しかし、例えば翻訳上演で、非アボリジニが演じることによってアボリジニ戯曲の中でアボリジニの身体が持つ政治性が消滅し、日本語で上演されることによってアボリジニ演劇における言語的戦略が意味をなさなくなるのは確かだ。アボリジニ演劇を上演することにおいて、アボリジニの身体と言語戦略こそがアボリジニ演劇を成り立たせるものであり、この2点を失わずにその作品をボーダーを超えさせるためには、海外公演か、日本の翻訳上演の場合にアボリジニの訳を翻訳された先の国の先住民の役者が演じるしか方法が考えられる。しかし、アボリジニとともに歩んだ歴史のない日本では、アボリジニの身体と言語戦略はオーストラリアを越えた時どこまでオーストラリアで上演したと同じぐらい有効なのだろうか。オリジナルプロダクションの来日公演だから乗り越えるものではないのだ。むしろ、アボリジニに対する日本の先入観や、アイヌなどの先住民にいまだにプリミティブなものを見ようとするイデオロギーが浸透する状況では、全く違う意味が付与されかねない危険性を孕む。我々はこのように大きくて未解決の問題に直面しながらも、演劇交流によって何かを見いだそうと試行錯誤を続ける日豪の演劇人たちの2000年以降の実践について、なおも考察を続けていかなければならない。