表題番号:2004A-036 日付:2006/03/25
研究課題近代ドイツにおける舞台芸術のパラダイム転換に関する総合演劇学的アプローチ
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 丸本 隆
研究成果概要
 本研究者は以前より、近代ヨーロッパの、舞台芸術のパラダイム転換の重要な一契機をなす18世紀ドイツの演劇改革に関する総合演劇学的な研究に取り組んできたが、本研究ではその流れに沿いつつ、特に演劇とオペラの中間形態ともいうべきジングシュピールを新たな研究対象に定め、その考察を進めてきた。
当時支配的であったイタリア・オペラの対抗ジャンルとして現れた国民的音楽劇の一形態であるジングシュピールは、その歴史的重要性にもかかわらず、現在では知られるところが少ないだけでなく、そのジャンルに想定される作品が多彩を極め、その全貌把握は容易でないが、本研究ではその実体の解明を目指して、特に次の2点に集中的なアプローチを試み、一定の結論を得ることができた。
すなわち① ジングシュピールは「イタリア語の代わりにドイツ語」、「レチタティーヴォの代わりに台詞」、「アリアの代わりにリート風歌謡」を特徴とするという定説を検証し、それには合致しない「ジングシュピール」が多数存在すること、ジャンル定義そのものに大きな「揺れ」のあることが確認できるが、② 演劇改革と国民劇場運動の文脈に沿って、このジャンルの意味づけを行うことにより、一定の共通項で括りうるジャンル的特徴がより容易に見出され、このジャンルの実態にさらに深く迫ることができる。
夏期休暇中にはドイツ滞在を利用して、ベルリンを中心に研究者との意見交換や資料の収集を行い、またライプツィヒの国立オペラハウスでは、ジングシュピールの代表作ながら現代では上演の機会に乏しい、ヒラーの≪狩り≫の、同館での上演を記録した、門外不出のビデオの鑑賞の機会を得、このジャンルへの認識を深めることができた。
なお、本学演博COEの研究成果ともなる近刊著『初期オペラの研究』に収録予定の論文「18世紀オペラのダイナミズムとジングシュピール」が、本研究の最初の公表された成果となるはずである。