表題番号:2004A-029 日付:2005/06/05
研究課題ドメスティック・バイオレンスに対する比較法的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 棚村 政行
研究成果概要
日本においても、2002年の内閣府の調査結果によると、配偶者や元配偶者からの暴力について、身体的暴力は15.5%、恐怖を感じるような脅迫は5.6%、性的暴力が9.0%などかなり深刻であった。ようやく2001年4月に配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律、いわゆるDV法が成立し、2004年にはその一部が改正された。とくに保護命令について住居からの退去期間が2ヶ月に延長され、子への接近禁止も含まれるなど改善がなされたが、今なお、地方裁判所の管轄としていてよいのか、手続や申立に手間隙がかかる、養育費や生活費、ローンの支払等経済的な問題に対しても暫定的な措置がとれないか、加害者及び被害者に対するカウンセリングや治療プログラムをどのように受けさせるかなど、問題点は少なくない。
 本研究では、主としてアジア地域での配偶者間暴力の問題を取り上げ、暴力の実情、背景、原因、これに対する法制と運用上の問題点、警察や福祉機関と裁判所との連携のあり方、民間のシェルターや相談機関と国・自治体など行政の取り組み等を比較研究することで、アジア地域における社会や文化的特性、暴力の発生や実情の共通性と相違性、法的対応に見られる特色と工夫などを明らかにし、日本法における被害救済と予防の方策につき考察と検討を重ねてきた。とくに、韓国では1990年代から女性団体による妻への殴打追放運動が盛り上がり、家庭暴力防止法制の推進に関する全国連帯という組織が結成され、1997年12月についに家庭暴力関連二法(DV法)が成立をみた。同法は、加害者の家庭復帰を促し、家庭の崩壊を防止する目的をもち、保護法と処罰法に分かれている。それにより、加害者への刑罰法的アプローチと被害者への福祉的アプローチを可能としており、家庭暴力の定義が女性に限られず家族全体を含むこと、少年法が参考にされて家庭裁判所が保護の機能を担うこと、アメリカに習い保護命令の内容が多様であること、加害者のケアのプログラムが導入されていることなどに大きな特色がある。韓国での2002年による検察の家庭暴力発生件数は1998年が3685件だったのが、2000年には1万2983件に増加し、家庭裁判所でも家庭保護事件調査官など専門職が置かれている。このようなDVの被害者・加害者のケアの体制やソフトな対応とハードな対応とのバランス等は日本法においても学ばなければならない点であろう。儒教的封建的な男尊女卑の意識が残る韓国では、やはり女性の地位の向上や男女の平等化への改革の中でこの問題を社会全体の問題として取り上げつつあり、今後の日本での法改正や法の運用上も大変参考になるといえる。