表題番号:2003C-101 日付:2005/03/16
研究課題ハワイ島における異民族間の言語接触-日本人移民とハワイ先住民の言語使用を例に
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 森本 豊富
研究成果概要
本研究の調査目的は次の3点であった。(1)『日英布會話書』(1918年)を分析し、20世紀前半のハワイにおける社会言語的接触状況を探る。(2)日系人及びハワイ先住民へのインタビューを通して、双方の社会的・文化的接触に関するデータを収集する。 (3)日本語新聞などの文献を調査し、日本人移民とハワイ先住民の交流に関する記事を探す。また、ハワイ語文献に関して海外共同研究者の助力を得て調査する。
(1)の『日英布會話書』に関する分析で明らかになったことは、日本人とハワイ人の関係よりも、ハオレ(白人)とハワイ人の主従関係である。同書の内容はすべてエクセルファイルに入力してあり、詳細な分析については今後も続行していく。
  調査期間中は、むしろ(2)に多くの時間を割いた。近年、盛んになりつつあるハワイ語復興運動において中心的な役割を担っているハワイ大学ヒロ校ハワイ語学部助教授のラリー・キムラ氏(父親が日系二世、母親がハワイ先住民とスコットランド人の混血)やカウアイ島ケカハにあるハワイ人学校ケ・クラ・ニイハウ・オ・ケカハの校長ハウナニ・スィワード氏(父親日系二世、母親ハワイ先住民)などにインタビューした。また、ラリー・キムラ氏を、同校ハワイ語学部教授ピラ・ウィルソン氏、言語学科教授本田正文氏と共に、2004年6月に早稲田大学で開催した日本移民学会第14回大会でのラウンドテーブルにパネリストとして招聘し、ハワイ語復興の経緯と現状及びハワイ先住民と日本人移民の歴史的な関係についてお話いただいた。ハワイ語学部のお二人の話からも、ハワイ語復興運動に関して、日系人が陰日向で活躍している事実が判明した。この招聘は当該特定課題研究によって可能となったものであり、大変感謝している。
  第3点目の文献調査については、最近になって1834 年から1948年までのハワイ語新聞の存在が明らかになり、現地ハワイ人研究者の協力を得て、日本人移民とハワイ人の接触に関する文献を探ってゆく予定である。以上、2年間の調査期間で得た知見、人的ネットワークの広がりは当初の予想を上回るものであった。ただし、言語接触に関する調査は未だ十分な分析と考察がなされておらず、残された課題である。
 研究成果については、部分的に扱ったものが1点、刊行予定のものが1点あるが、調査そのものはまだ端緒が開かれたばかりである。今後とも継続的に実施し、ハワイ先住民と日本人移民の接触の歴史的研究と言語使用に関する理解を深めていきたい。