表題番号:2003B-020 日付:2006/10/31
研究課題花崗岩類・変成岩類の帰属からみた九州中軸部の地体構造の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 高木 秀雄
研究成果概要
九州中軸部の地体構造の解明を目的とし,中央構造線の延長部と想定される大分-熊本構造線の北側と南側の花崗岩類,変成岩類の地質調査と試料採取を実施し,それらの年代測定を行なった.
 花崗岩類については,大分県国東半島および朝地変成岩に伴われる花崗岩類,熊本県阿蘇火山の北部の阿蘇-4火砕流堆積物に含まれる異質礫としての花崗岩礫,熊本県菊池花崗岩,さらに,天草下島の高浜変成岩に伴われる高度変成岩について,検討の対象とした.それらのうち,大分-熊本構造線の北側に分布する国東半島の花崗岩類1試料と菊池花崗岩1試料について,ジルコンを分離し,広島大学のSHRIMPにてU-Pb年代測定を行なった.その結果,国東半島の黒津崎花崗岩から113.4±5.0 Ma, 菊池花崗岩から110.4±3.3 Maという値が得られた.この結果は,従来領家帯の延長と考えられ,それまで知られていた領家帯のモナザイトCHIME年代の95-65Maの年代範囲をもとに,100Maよりは若いであろうと予想されていたものが覆され,大分-熊本構造線の南側に分布する朝地帯~肥後帯の花崗岩類の年代(120-100Ma)の年代範囲と同じという結果が得られた.このことは,次の2つの問題を提起する.すなわち,大分-熊本構造線より北側の領家帯は,本州~四国の領家帯と異なる,あるいは(2)九州の領家帯とされた花崗岩類は,すべて肥後帯に属するものであり,領家帯は九州には延びていない.現段階では,両者のどちらが正しいかを判断することはできないが,今後の重要な課題を提起することになった.そのほかの花崗岩類,変成岩類については,鉱物分離の困難さや広島大学の機器の状況から,年代測定が予定より大幅に遅れてしまったが,阿蘇-4火砕流堆積物の異質礫については,ざくろ石と白雲母を含有し,マイロナイト化を受けていることから,朝地地域の荷尾杵花崗岩類に対比され,現在両者の白雲母分離を行ないつつあり,K-Ar年代測定で年代を決める予定である.
 天草下島の高浜変成岩類は,近年三波川帯の延長と考えられており,したがって,その変成岩の構造的上位に断層を境に分布するマイロナイト化した中圧タイプの高度変成岩(天草マイロナイト)の帰属は,著者が永年行なって来た関東の三波川帯の上に乗る古領家帯のメンバーそのものと考えられる.構成岩類としては,ざくろ石緑簾石角閃岩,ざくろ石白雲母泥質片麻岩,結晶質石灰岩などで,それらの岩種構成は肥後帯のものと一致する.構造的下位にある三波川変成岩との年代の差を,従来知られているK-Ar年代では不明確であるため,今回Ar-Ar年代測定を実施するため,白雲母を分離し,現在岡山理科大学蒜山研究所に測定を依頼中である(結果が届いたのは2006年8月)で,論文準備中.)また,高浜変成岩に対比される変成岩は長崎半島にも分布しており,九州西部では三波川帯が北に著しく張り出して分布することが最近明らかになっている.このことは,大分-熊本構造線の北側の花崗岩類(上記)全体が,領家帯ではなく,肥後帯のメンバーである可能性を暗示しており,西南日本の地体構造論に大きな飛躍をもたらす可能性がある.今回の研究では,その重要なきっかけが得られた.