表題番号:2003B-019 日付:2005/04/21
研究課題高エネルギー天体現象の電波観測
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 大師堂 経明
(連携研究者) 理工学術院 教授 前田 恵一
(連携研究者) 理工学術院 教授 小松 進一
研究成果概要
以下の主要な3研究について、(a) 2003-2004年にわたる観測システムの改良、増設、(b) それを可能にした物理学的背景、(c)得られた観測成果、についてまとめる。

(1) 2003-2004年にわたる64素子干渉計の観測システムの改良、増設
松村などによる早稲田大学64素子干渉計のローカル信号部、RF受信機の交換などにより、10.6GHzでより高感度な観測が可能になり、AGNの3C84の電波強度の変化を観測している。那須における1.4GHz観測と結合して3C84の電波スペクトルの変動を調べた。これはバーストを引き起こす高エネルギー電子のエネルギースペクトルの情報を与え、電子の加速機構をさぐる重要な情報となる。

(2) 那須観測所の受信機雑音測定、受信機ゲインの変動のキャリブレーション市川などは、A/D変換器のサンプルタイミング精度を損なうことなく1週間を超える長時間観測を可能にする方式を確立した。さらに受信機の出力電圧をナイキストレートでサンプルし、その分散から受信機雑音、アンテナ温度、を求める方法も開発し、有効な方法として利用できるようになった。アンテナには宇宙背景輻射、天体からの電波、地面からのスピルオーバーなどの雑音電波が入ってくる。それに加え、非平衡状態におかれている受信機自身がアインシュタイン係数からきまる熱雑音を出す。この受信機雑音は測定感度の限界を与えるもので、正確な測定が望まれるが、その値はこれまでNFメータなどの高価な測定器によりパワーの測定から得られていた。今回の方法は雑音電圧をナイキストレートでサンプルするために、1次元のBrown運動としての熱雑音が直接手に取るように見える。かつ高価な測定器が不要である。天体からの雑音電波が2つのアンテナに入射したのちに位相関係をもって合成されると、雑音であるにもかかわらず干渉縞を生ずることが観測から見て取れる。雑音電波といえどもも干渉する印象深い、説得力のある実験である。この方法を応用して新沼などは受信機ゲインの変動を較正する方法を開発した。初段のRF受信機の前に同軸スイッチを取り付け、30分毎に常温300Kの終端抵抗からのジョンソン・ナイキスト雑音を取り込む。これを用いて温度による受信機ゲインの変動を頻繁に較正できるようになり、観測効率が大きく向上した。


(3) 那須観測所の駆動系の開発、観測データの取り込み伝送システム
澤野、大久保、松村、などによる20m x 8基 の球面鏡の駆動系が完成した。また松村などにより観測データの取り込み伝送システムが完成し、効率的観測が可能になった。
(1)-(3)手法の確立により、赤緯 32度<δ<42度 の範囲を定常的かつ効率的に観測することが可能となった。現在、2週間を単位として同時に4赤緯をサーベイし、トランジェント電波源捜索やEGRETγ線源の電波同定をすすめている。後者は260個がEGRET 3rd カタログに登録されているが、エラーボックスが 1-2度と大きく、電波変動のチェックによる同定が有力な方法となっている。この過程でマルカリアン銀河の電波変動などをとらえた。