表題番号:2003B-018 日付:2005/03/23
研究課題ナノ・レベルで血液に存在する生体因子の発掘と解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 加藤 尚志
(連携研究者) 教育・総合科学学術院 教授 菊山榮
研究成果概要
内分泌ホルモンや細胞増殖・分化誘導因子等(サイトカイン・インターロイキン等)などを代表例として、生体試料に存在する微量蛋白質は、生体調節機能を有する場合が多い。しかし微量であるがゆえに、それらの蛋白質を単離し分子構造を同定する作業は古くから非常に困難な作業であって、このことは全ゲノム配列が判明した生物種を対象としても変ることがない。むしろ後者の場合は、ポストゲノム情報として今後益々、蛋白質の機能情報の獲得は重要な課題となってきた。本研究は、血液循環中に微量(サブμg・サブng/ml)に存在する生体機能蛋白質、即ち、大量の主要血液蛋白質の存在に隠れ、通常の方法では分離・検出されずにいるか、未発見である微量蛋白質の分離を免疫学的手法を活用することにより、簡便かつ網羅的な高純度濃縮・精製を実現する手法概念の実証を目的とした。さらに進化生物学上、種として重要な位置にありながらゲノム解析が未着手であり、個体からの採取血液量が限られる両生類(アフリカツメガエル、ウシガエル、イモリ等)を実験対象とし、存在の検証に続いて、生物学的研究を進める意義の深い分子群について、蛋白質化学的な分子性状を解明する手段として適用する手法を目指した。
実験モデルとして、無尾両生類アフリカツメガエルの血中微量蛋白質の分離を試行した。まず血液中の主要蛋白質を認識するポリクローナルウサギ抗体の作製を行い、精製抗体を固相に固定化し、主要蛋白質群を抗体吸着画分として出発材料から除くクロマトグラフィーを調製した。第一段階の抗体結合性吸着画分には約90%の蛋白質が吸着した。更に、第一段階の抗体カラムの非吸着画分を抗原にして抗体を作製し、第二段階のクロマトグラフィーを組み立て、得られる画分の成分変化を調べた。この結果、血液総蛋白質の90%以上の除去に成功し、2ステップで得られた蛋白質中にプロラクチンなどの生体微量分子が高い回収率で濃縮可能であった。
以上のように、精製初期段階で夾雑蛋白質を簡便迅速に除去できれば、精製ステップ数の低減や、活性の維持や精製純度を高める有効な手段となることが示された。今後は他のクロマトグラフィーとの併用によって、高純度の微量蛋白質画分を調製し、質量分析などを適用することによって、分子同定を進める道が拓かれた。