表題番号:2003B-008 日付:2006/01/10
研究課題ヨーロッパ史における社会的エリートと国家
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 井内 敏夫
研究成果概要
科学研究費を獲得するための準備研究としての本計画は、古代オリエントを含む欧米地域の個々の歴史的社会を研究の対象とし、そこにおける社会的エリートを特定して、その集団的志向を抉り出し、それらと国家のあり方、国家の動き方との相互関係を個別に問うことを目的とするものである。この二年間の活動において特筆すべきは、2003年12月に「近世ヨーロッパの東と西――共和政の理念と現実をめぐって」と題するシンポジウムを開催し、その一年後の04年11月に小倉欣一編『近世ヨーロッパの東と西――共和政の理念と現実』と題して山川出版社から刊行できたことである。これは、従来の日本における西洋史学とは違って、近世中東欧の共和政的な国制、政治文化の分析と理解を軸にして近世ヨーロッパ各国のレスプブリカ性を検証し、引いては古典古代から中世・近世・近代へといたるレスプブリカ概念の歴史を跡付けるものである。また、本研究計画は、プロジェクト研究所のひとつであるヨーロッパ文明史研究所の研究課題でもあり、それゆえ、研究員の成果の共有という目的で、研究員が出版する著作の読書会を平行して行ってきた。これまでに取り上げたのは、前田徹『メソポタミアの王・神・世界観』(山川出版社、2003)、踊共二『改宗と亡命の社会史―近世スイスにおける国家・共同体・個人―』(創文社、2003年)、丹下栄『中世初期の所領経済と市場』(創文社、2002年)、五十嵐修『地上の夢キリスト教帝国――カール大帝の<ヨーロッパ>』(講談社選書メチエ、2001年)の4点である。2005年度の科研費申請にあたっては、「社会的エリート・公権力・国家――専制と合意の拮抗過程」と少々テーマを具体的にしてみた。我々は、ヨーロッパの政治システムの成長過程を単に民主主義の発展として理解するのではなく、専制と合意の政治のダイナミックな競合・拮抗過程と見るからであるが、この変更も二年間の準備研究の成果の一つである。