表題番号:2003A-983 日付:2006/05/06
研究課題資金調達手段の選択と企業統治の関係に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 大学院ファイナンス研究科開設準備室 助教授 蟻川 靖浩
研究成果概要
本研究では、1980年代後半以降1990年代を通じた日本企業の資金調達手段の選択とコーポレートガバナンスの関係について実証的研究を行った。具体的には、日本の上場企業の銀行借入と社債の間の選択問題、およびそれに対するメインバンクの影響をマイクロデータを用いて実証した。
 
本研究の主な貢献は、東証一部上場企業の1980年代後半以降1990年代を通じての資金調達手段の特徴を明らかにしたことである。ここでは、規制緩和が進む中で適債基準によって社債発行が部分的規制されていた1984年から1989年までの企業の負債選択と、社債市場における規制がなくなった1996年から2000年までのデータを用いた分析の2つを行った。そして第一に、金融自由化によって複数のモニタリング圧力の異なる資金調達手段に直面した企業は、将来収益が高いほど、デフォルトの際の救済オプションが小さい一方で、モニタリング圧力も小さい資金調達手段、すなわち無担保社債を選択することが、1980年代後半および1990年代後半に共通して観察されることを明らかにした。したがってこの時期には、将来収益の低い企業ほど銀行借入に依存していたことになる。

また、1980年代後半以降の企業の資金調達はそれ以前と比較して大きく変化し、それまで企業経営の規律の面で重要な役割を演じてきたメインバンクの機能が1990年代を通じて低下したことが明らかとなった。具体的には、将来収益が高い企業ほどメインバンクからの借入が少ない一方で、デフォルトリスクが高い企業ほどメインバンクへの依存度が高いことが実証的に確認された。このことは、1980年代の金融自由化以降1990年代を通じて、メインバンクへの依存度が高いのは、相対的に将来収益が低くデフォルトリスクが高い企業だったことを示している。そして、このような結果は、1990年代において企業の資金調達手段は、パフォーマンスやデフォルトリスクに応じて分化していたことを示している。これは、1980年代まで日本企業の資金調達手段が、一様に銀行借入に依存していた状況とは対照的だといえる。